03 鬼
" 違うひと"
written by まゆ

 畏怖、畏敬。あるいは嫉妬や羨望まじりの揶揄。そして多少の非難。
 さまざまな感情のエッセンスをこめて、世人は彼を「仕事の鬼」と評した。
 結果がすべて。成功のためなら手段も選ばず、 他人の思惑や心情など顧みることもない仕事ぶりは、まさにその世評に違わぬもので、本人も「鬼」と呼ばれることをむしろ賞賛と 受け止めている節があった。

 だが。

 「なんだか、違う人みたいだね」

 ベッドサイドに無造作に置かれていた経済雑誌をパラパラとめくっていたマヤが、真澄のインタビュー記事を見つけて笑い転げていた。

 「えっとぉ、『大都芸能、業界首位を独走。冴え渡る経営手腕、鬼社長の面目躍如』だって」

 記事に添えられた会議風景の写真には、厳しい表情で部下に檄を飛ばす真澄が写っている。

 「速水さんが、本当はこんな穏やかな目をしていること、きっとこの人たちは知らないんだろうね」

 マヤは雑誌を脇に置くと、隣に横たわる真澄の目を覗き込んで微笑んだ。

 「優しい声で名前を呼んでくれたり、じっと目を見て話を聞いてくれたりすることも知らないんだろうね」

 マヤは甘えるように両腕を真澄の首に巻きつける。

 「会議の時だって、俺は発言者の目をじっと見て話を聞いてやってるぞ」
 真澄は、照れ隠しに少しだけマヤの言葉を茶化してみた。

 「あら、それは見てるんじゃなくて、睨みつけてるんでしょ」

 「そうか、そうだな」

 いつもの高笑いが始まりそうで、マヤは顔をぐっと真澄に近寄せると、真澄の額に自分のそれを触れ合わせた。

 「いいの。私だけが知ってる速水さん、だもん。だから、外では鬼のままでいていいよ」

 潤んだような黒い瞳を向けられては、さしもの鬼もなす術を知らない。心の中に白旗を掲げながら、いじらしい言葉を紡ぐ唇をそっとふさいだ。



5.20.2003





<FIN>








□まゆさんより□
うわ、なんだか私らしくないっ!ベタです。もう、思い切りベタです。
だから何?だとわかってやってますので、どうぞ広い心で見逃してくださいマセ。
それでも見たい、と言ってくださった杏子さんに捧げます。
杏子さん、ホントにこんなのでよかったの〜?






□杏子より□
「どうしょもないものあるんだけど、いるぅ〜?」
とまゆさんに言われ、「くれ!!よこせ!!」と吠えましたところ、頂きました。
びっくりしました。ま、まゆさん???どうしたの?芸風チェンジ??
今晩のまゆさん宅のお味噌汁は、砂糖が入ってるに違いない…。
まゆさん、ごっそーさん!なんか、読み終わったあとも、指がベタベタしてるよ。(笑)
ちなみに壁紙は、ピロートークっちゅーことで、ベッドサイドの妖しいランプと。





30 Stories top / home