07 携帯電話
"The First Call"
written by YOYO
Pirururu…

「はい。」

「…もしもし…。」

「…マヤ?」

「はい…。…あの、すいません…、まだお仕事中ですか?」

「ああ、なかなか終わらなくてね。」

「そう…ですか…。」

「どうしたんだ?こんな時間に。もうチビちゃんは寝る時間だろう?」

「…チビちゃんって言うの、やめてくださいって言ったのに…。」

「これは失敬(笑)。」

「えっと…、実は私、今日、携帯電話買ったんです…。」

「…あんなにいらないって言っていたのに(笑)。それから掛けているのか?」

「はい。…使い方よくわからなくて、なかなか番号とか登録できなくて…。
でも、やっと速水さんの名前と携帯番号…登録できたから。…だから、 この電話で、初めて掛ける相手…、速水さんにしてあげようかと思って…。」

「…それは、光栄だ…。」

「速水さん…、今…社長室です…よね?」

「ああ…、そうだよ。」

「じゃあ、速水さんの後ろの大きな窓から…夜空、見てみてください…。」

「夜空…?」

「はい…。」

「ああ…大きいな…、大きな月だな。今夜は満月だったのか。」

「…すっごく綺麗だから、速水さんにも見せてあげようかなって…。」

「そうだな…。綺麗だな。ありがとう…。」

「速水さん…、まだ今日のお仕事…終わらないですか?」

「…ああ、そろそろ帰りたいよ。」

「速水さん…、今見ている月から、…そのまま視線を下に降ろしてください。」

「下に…?。」

そこには、月明かりに照らされながら、買ったばかりの携帯電話を耳に当て 上を大きく見上げている…世界で一番愛しい彼女。

俺は、残った仕事など全て放り投げ、社長室を後にする。



2003.04.15



<FIN>














□YOYOさんより□
このお話が、どの頃のものなのか…、それは、お読みになってくださった方の ご想像にお任せします…。               








□杏子より□
切り取られた1シーンの描写、二人のやりとりが目に浮かぶようです。
携帯電話を小道具に使った、ステキなお話、 この前後を想像するのも楽しいですね。
こういう風に気軽に書けるのがこの30Storiesのいいところでもあります。一つの単語から浮かぶ、みなさんのガラカメに纏わるインスピレーションが楽しめ、本当に杏子はこのコーナーが好きです。(自分じゃ、ぜんぜん書いてませんが…)
YOYOさん、余韻のあるお話ありがとうございました。





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