後編






師走とはよくいったもので、慌ただしく駆け抜けるように12月の月日は過ぎていく。
プレゼント交換をする、などと真澄と約束したはいいが、これといってアイデアがあったわけではない。いや、どちらかと言えば何でも持っているであろうことが容易に想像できるあの真澄に対して、いったい何を贈ればいいものか、皆目見当もつかないといったほうが正しい。
あれこれ考えては候補リストにあがった物も、削除されていくばかりだ。無難に思えたネクタイも、さりげなく周りに聞いてみたところ、あれほどセンスが難しいものはないと言われ、すぐに怖気づいてしまった。万年筆、財布、名刺入れ……、どれもこれもすでに愛用のもの(しかも高級)があることは分かり切っているのでこれも候補から消えていった。
何枚あっても困ることもないだろうから、無難にYシャツを贈ろうかとも思ったが、首周りのサイズと腕の長さを知らなければ買えないことが分かり、これも諦めた。

ため息がでる。

プレゼントを渡すということを、自分はとても簡単に考えていたように思う。いや、実際はそう難しいことではないのかもしれない。相手が真澄でさえなければ。
自分の大好きな人、それもあの真澄にプレゼントを贈るなど、今の自分にはあまりにハードルが高かったことに、今更ながら気付かされる。

妙な思い入れもあるかもしれない。

本公演の終了後、真澄と紫織の婚約が突然白紙に戻された衝撃。理由は自分なぞが知る由もないが、もともと政略結婚とうたわれるほどに複雑に利害が絡み合う縁談話だったと聞く。本人達の意思だけではどうにもならない事もあるのだろう、と推測するぐらいしかマヤには出来なかった。

身の程知らずにあからさまにはそれを示すことは躊躇われたが、紫織との婚約が白紙となった今、どこかに自分の気持ちをさりげなく込めたいという想いが働く。それがプレゼント選びを一層に難しくさせていることは間違いなかった。

クリスマスは日一日と迫ってくる。
焦燥感に溢れたため息がまた一つ、マヤの胸にこぼれ落ちた。







そしてクリスマスイヴの12月24日。

クリスマス近辺でプレゼントを渡せればいいと思っていたマヤにしてみれば、まさか本当に24日のイブに直接真澄に会って渡せるなぞ、想定外であった。3日前になっても、一向に真澄からの連絡もなく、忘れられているのを覚悟の上で電話をしたところ、真澄が指定してきたのは24日当日だった。唯一空いているのがこの日のこの時間だけという事で、そしてなぜか自分のスケジュールもここだけは空いていたのだ。

社長室のある階へと上がっていくエレベーター。
扉の上に点灯する、上がっていく階数の数字を無意識に追ってしまう。

手にはあの日購入した、光るビジューバッグを携え、中にはやっとの想いで選んだ真澄へのプレゼントが入っている。いつもの黒いコートではなく、この日のために購入した白いコートの襟元には、金のツリーのブローチ。
たかがプレゼントを渡しに行くだけだというのに、かなりオシャレをしてきしまったことが今更ながら恥ずかしくなる。

階層が上がるごとにまるで比例するかのように、いたずらに上がっていく自らの動悸を鎮めるため、マヤは何度も意味もなく前髪に触れてみた。けれどもそれは、まるで効かないおまじないのようなものだった。


「あの……、こんにちは」

通された社長室。
二人きりであることを出来るだけ意識しないようにすればするほど、意識してしまうのが分かり、挨拶から先の言葉が上手く出てこない。

「やぁ、チビちゃん」

いつもの低い、けれどもどこか自分をからかうような含みを持った声に促されるまま、黒い革張りのソファーへと腰かけた。
手元を緩めると、手のひらにはバッグの持ち手の跡がくっきりと残っていた。真澄へのプレゼントが入ったそれの持ち手を、びっくりする位きつく握りしめてしまっていたようだ。

「あの……、お忙しいところすみません。例のプレゼント交換なんですけれど――」

「ああ、その件なんだが悪い、バタバタとして時間がなく、チビちゃんへのプレゼントを用意できなかったんだ」

自らの言葉を遮るように発せられた真澄の言葉。日本語であるはずが、よくわからない国の言葉に聞こえた。

”ヨウイデキナカッタ”

”ヨウイデキナカッタ”

”ヨウイデキナカッタ”

3回脳内にエコーさせ、それはやはり真澄がこのような”プレゼント交換”などという子供の遊びに付き合ってくれる事などあるはずがなかったのだと、そういう意味なのだと理解した。
恥ずかしさと居た堪れなさで、すぐに立ちあがって部屋を飛び出しそうになったその時、意外な真澄の提案がマヤを引き留める。

「代わりにお詫びと言ってはなんだが、今晩食事に君を招待したい」

驚いて、真澄の顔をまじまじと見つめ返してしまう。

だって、
今日は
イヴなのだ。

イヴというのは恋人や家族と過ごす日であって、訳の分からない約束を取り付けた訳の分からない女優と、訳の分からない成り行きで過ごす日などではないのだ。

「今晩?」

「ああ、今晩だ」

「これから?」

「そうだこれからだ」

「私と速水さんが?」

いつまでも続くと思われた、オウム返しの問答に真澄が苦笑を洩らす。

「この状況で俺と君以外の誰が食事に行くって言うんだ。君さえよければ、今晩一緒に食事に行きたいと誘っているんだが」


最初は期待していた分、物凄く落ち込んだ。
今度は物凄く落ち込んでいた分、その倍の勢いで浮上してしまうのが分かる。

プレゼントなんていらない。
真澄と一緒に過ごせるクリスマスの夜以上のプレゼントなんて知らない。
こんな偶然、もう一生自分には回って来ないかもしれない。


「はい!いきます!!」

相手にされなかった”プレゼント交換”の代償だというのに、場違いなほどに高揚していく自らの気持ちを、マヤはビジューバッグの持ち手を強く握りしめることで必死に抑えた。







こんなクリスマスイヴの夜、そこが突然予約して取れるような店では到底ないと思える、代官山の入り組んだ路地裏にあるお洒落な一軒家のフレンチレストラン。客席数はわずかに5組に限定されている。かと言って、こんなプレゼント交換の代償として急遽用意されたような席を、真澄が随分前から予約していたなどあるはずがない訳で、きっとそれは”一流芸能社の社長”である真澄だからこそできる裏技的なものがあるのだろう、とマヤはなんとなく推測する。
そして、そんなことを推測するよりも、今は目の前にいる真澄とのディナーのことで自分の心臓はひっくり返りそうなのだ。

「こうやってチビちゃんと二人きりでディナーとはな」

「や、役不足だって分かってますからっ!」

自信のなさから、些細な真澄の言葉にもすぐに噛みついてしまう。幼さが一々露呈するとは、きっとこういうことなのであろう。

「そうじゃない、そう怒るな。子供だったチビちゃんと、ワインを飲みながらこんなふうに食事が出来るようになったことが、感慨深いと言ってるんだ」

そう言って、大きな薄いワイングラスを静かにあわせてきた。ワイングラスからは、赤ワインを抱いた豊な膨らみを持った音が響いた。

「こんなふうにクリスマスの夜にちゃんとしたお店でディナーなんて、私生まれて初めてです。ほんとにそういうこと、疎くって……。芝居しかしてこなかったから――」

恥ずかしさから俯きがちにマヤは言葉を選ぶ。自分だけがこの店に似合っていない気がして、目の前の真澄の顔すらまともに見ることが出来なかった。

「芝居しかしてこなかった君の人生は、だからこそ魅力に溢れている。もっと自分に自信を持て。誰もがしているような、そんな経験はこれからいくらだって出来る。男と食事に行くのも、恋をするのも、きっとこれからだ……。君ももうチビちゃんでもないだろう」

穏やかな低い声のそれは、静かに告げられた未来の真実のようで、もっと言えば自分はもう”チビちゃん”という立場でごまかすことの出来ない一人の女であることを、唐突に告げられたようで、マヤは落ち着きをなくす。『もうチビちゃんじゃありませんから』『もう大人ですから、チビちゃんなんて呼ばないで下さい』と何度も自分から言っておきながら、実際にそう真澄から言われると、突き放されたような寂しさを感じる。

「恋を……、しているのか?」

マヤが無言で動揺しているのを違う意味に取ったのか、真澄の質問の矛先が想定外のポイントへと向かう。

「え?こ、恋ですか?……はい、あの、好きな人はいますよ」

真澄の表情が俄かに固くなったのにマヤは慌てて声をあげる。

「で、でも別に付き合っているとか、そんなんじゃ全然ないですよ!あの……、勝手に私が好きって言うだけで――」

舞台系女優とはいえ、一応芸能事務所の所属だ。おおっぴらな恋愛などご法度なのであろうと、真澄の表情の変化を勘違いしてマヤは慌ててそう説明する。

「気持ちを告げたりは考えていないのか?」

「告げたら、多分迷惑になっちゃうから」

意外なマヤの答えに真澄は訝しげな顔をする。

「なんで迷惑になるんだ。君に好かれて困る男もいないだろうが」

予想外に真澄がムキになっている気がして、マヤはおかしくなる。だってあなた、迷惑じゃないですか?――そう言いたいのを我慢してマヤは笑う。

「いますよ。何言ってるんですか。こんなチンチクリンの女優なんか、相手にしてくれません」

その答が気に食わなかったのか、真澄はフォークとナイフをテーブルに置いて両手を顎の下で組むと、じっとこちらを見つめてきた。
獣に睨まれた小動物のように、フォークとナイフを握りしめたまま、マヤも動けなくなる。
何を言われるのかと身構えたが、結局真澄は大きなため息をひとつつくと、苦笑を洩らしながら頭を横に振った。

「まぁ、君がそう言うんだったら仕方ない。俺があれこれ言っても始まらないな」

「なんだ、アドバイスとかして下さるのかと思って、心のメモ帳準備してたのに」

空気が一気に和んだので、先程までの緊張感が嘘のようにそんな軽口が自然とこぼれおちた。

「アドバイスなんて俺に求めるな。俺も恋愛は苦手だ」

「そうなんですか?意外〜」

「それは嫌味か?結局、結婚も出来なかった男なのは君も知っているだろうが。仕事の相手の気持ちを読むのは得意だが、好きな女が何を考えているのかは今でもさっぱり分からない」

軽い口調ではあったが、核心に触れそうで触れないぎりぎりの軌道を通過していく言葉。それでも最後の一言をそのまま通過させるわけにはいかなかった。

「好きな人、いるんですか?」

その言葉に、真澄は口に含んだばかりのワインを喉に詰まらせる。

「なんだ、いきなり――」

「だって今『好きな女が何を考えているか分からない』って。もしかして、ほんとはお付き合いしている方とか、いるんじゃないですか?今日だってほんとは――」

「落ちつけチビちゃん、声がでかい!」

そう言って、突如暴走し始めた自分を制するかのように、咄嗟にテーブルの上に置かれた手に真澄の指先が触れた。小さな店内、確かにこのイブの夜に相応しくない会話が響いてしまっていた。

「いいか、もしそうだとしたら今日俺はここに君といない。イヴの夜に、自分以外の、それも所属の女優と二人きりで食事をする男を許す恋人がいると思うか?
今日はクリスマスイヴだ。俺は君と楽しくここで最後まで食事がしたい。いいな?」

真澄の言葉を理解したように、マヤは無言で頭を縦に振る。ようやくマヤが落ち着きを取り戻したことを確認すると、真澄はゆっくりと自らの指先をマヤの手の甲から戻した。それだけのことなのに、心の一部に素手で触れられ、そしてそれが離れていってしまったような錯覚をマヤは覚えた。






デザートも運ばれ、食後のコーヒーが用意される頃、マヤは用意していたプレゼントを真澄の前に差し出す。

「あの……、これ、私からのプレゼントです。速水さんへのプレゼント、ほんとに難しかったです。男の人の欲しいものなんて、ただでさえ分からないし、ましてや何でも持ってる速水さんだし……。
なので、ちょっとだけズルしちゃいました」

「ズル?」

「はい、水城さんにご協力いただきました」

そう言われたところで、それでも目の前の茶色いボックスに何が入っているのか見当もつかない真澄は戸惑ったように手を伸ばす。
よく見れば、真澄もよく知ったブランドのロゴのリボンがかかっている。

「開けてみていいか?」

「開けてくれなくちゃ困ります」

笑いながらマヤは答える。
プレゼントを開封するのにこんなに緊張するのは初めてだ、と真澄も苦笑しながらするするとリボンを解く。
箱の蓋を開け、薄紙をそっとめくる。

現れたのはダークブラウンのレザーの手帳。しかしどこか見覚えがある。

「速水さんが今使っているのの色違いです」

心の声に答えるかのようにマヤの声がかぶさる。

「水城さんに速水さんが欲しいものって何ですか?って相談したら、そう言えばもうすぐ来年の手帳を用意しなきゃいけなかったって、水城さん教えてくれて。いつも翌年のレフィルの用意、水城さんに頼んでるでしょ?聞いたら速水さん、そのブランドの手帳、もう10年も使っていて、毎年レフィル買い替えて使う位だからよっぽど気に入っているんだなって。だったら使い慣れたそれのほうが新しいのよりいいだろうけど、でもレフィルだけプレゼントなんて寂しすぎるから、色違いだったら抵抗なく使って貰えるかな、って。
手帳も10年も使って貰えたら、きっと喜んでると思うんですよ。だから選手交代!」

そう言って、マヤは好きな人にプレゼントを渡すという奇妙な照れ臭さも手伝って、本当に選手交代の合図よろしく片手を上げるポーズを取るとおどけたように笑った。

確かに真澄が10年に渡り愛用してきた手帳は同じモデルの色違いのブラックだ。長年使い慣れていただけに、新しい手帳を買おうなど思ったこともなかったが、色違いというのも思いつかなかった。

「毎日使っていたから気にならなかったが、そういえば俺の手帳も10年で随分と酷使されてきたからな。新しい手帳か、気持ちいいな。
ありがとう」

その穏やかな笑みに、マヤは心からホッとする。
とりあえず、喜んで貰えるものを、迷惑とは思われないものをあげられたようだ。

――新しい手帳。

無難な物を選んだように取り繕ったが、密かにそれを選ぶにあたって込めた想いは、本当は別の所にもあった。
真澄にしてみれば余計なお世話かもしれないが、紫織との婚約が白紙に戻るという激動の一年だった今年だが、新しい年は新しい手帳で全てをリセットして欲しい。
そんな想い。

どうか来年は、真澄が幸せでありますように。
そんな想い。

そして来年も、遠すぎない距離で真澄の側にいられますように。
そんな想い。

「大切に使うよ」

心の密かな想いに応える真澄の言葉が、温かく自分の心にも届いた。



その時、真澄の携帯が鳴った。
おそらく仕事の電話なのだろう、液晶の画面を見た真澄の表情が仕事モードに入ったのを察知したマヤは、どうぞ出て下さいと片手で促し、席を立つ。食事も終わったことだし、そろそろトイレに行きたかった。さりげない調子で席を外す。


「はい、ええ、その件でしたらこちらもそのつもりでおりました。はい……、1月ですか?少々お待ち下さい」

重要なクライアントからの連絡。
来年のアポイントであることから、思い立ったように真澄の手が新しい手帳へと伸びる。

「1月5日、ですね。ええ、大丈夫です。時間は――」

その瞬間、真澄の目が新品のはずの手帳のまっさらなページの上にありえない文字を捉える。呆然とし、意識がその文字の上で固まる。すぐに電話の向こうから訝しげに自分を呼ぶ声で我に返った。

「ああ、申し訳ありません。ええ、大丈夫です。1月5日のでは15時ということで――」

なんとか冷静さを取り戻して電話を切ったが、改めて手帳に書き込まれていた文字が錯覚ではないことを確認するように目で追う。
1月2日の欄にはこう書かれていた。



”北島マヤに年賀状の返事を書く。(初詣に誘ってもよい)”


まさかと思ってページをめくると、2月も3月も書き込まれていた。真澄の指先が全てのページをめくっていく。






2月20日
北島マヤに誕生日プレゼントを渡す

3月14日
北島マヤにホワイトデーのお返しをする

4月1日
北島マヤをだます

5月10日
5月病の北島マヤを食事につれて行く

6月1日
用がなくても北島マヤに電話する

7月7日
北島マヤとプラネタリウムに行く

8月15日
北島春の墓参りにマヤと行く

9月20日
紅天女再演初日
北島マヤを激励する

10月10日
大都芸能の運動会を開催する

11月3日
北島マヤからプレゼントを貰う

12月24日
予定がなかったらまた北島マヤを誘う
出来たら紫の薔薇を贈る






全てのページをめくり終えた瞬間、目の前にトイレから戻ったマヤが呆然と立ち尽くしていることに真澄は気付く。


「なんだこれは?」

「冗談です」

「冗談なのか?」

「……」

無言のまま固まるマヤに対して、真澄は閉じた手帳をゆっくりとテーブルの上に戻し、席に座るよう促す。まるで悪戯が見つかって叱られる子供のように、マヤは小さくなるばかりだった。

「いいか、冗談でこんなことをやったことを後悔するなよ」

何か言い訳をしようと、泣きそうな顔で必死に真澄のほうを見上げると、意外な物が目の前に差し出される。

濃紺のベルベットの小箱。

訳が分からずおろおろするばかりのマヤの手のひらに、真澄はそっとその小箱を乗せる。

「プレゼントを買い忘れたなんて嘘だ。本当は用意してあった。酷く場違いで、不相応なものに思えて渡せなかった。
でも気が変わった。君が冗談でこんなことをするというなら、俺も渡す。迷惑だと言われても知らない」

ゆっくりとベルベットの蓋に指をかけてケースを開ける。まばゆい白い光が蓋の隙間から輝く。あの日表参道で見た冬の白い光が、マヤの脳裏に蘇る。

ダイヤモンドの指輪。

ありえないものを目にして、マヤは出てこない言葉を必死で絞り出そうと口を動かすが、やはり何一つ言葉にはならなくて。

「好きでもない男にこんなものを渡されても、困るだけだろう。それでも困らせるとわかっていて、君のために買いたくなった。男の勝手だな」

「返しませんよ」

やっとの思いで喉元を通過した言葉は、無骨なほどに無愛想で。

「やっぱり気が変わったから返せって言われたって、あたし、返しませんから」

その言葉に真澄は笑いながら、マヤの細い指を取る。ケースから取り出した指輪をゆっくりと左手の薬指へとすべらせる。

「俺たちはいつも順番がめちゃくちゃだ。君といるといつも俺はこのざまだ。やり直そう」

「え?」

「ちゃんとはじめからやり直そう」

テーブルの上に活けられていた一輪の紫の薔薇を抜きとると、そっとその一輪を差し出す。

「ずっと君のことが好きだった。紫の陰として、そして一人の男として――」

一度だけ真澄が目を瞑る。ずっと待っていた言葉がどこか遠くから自分の中へと届くのを待つかのように。

「ずっと一緒にいて欲しい」

溢れだす想いと、言葉にならない感謝の気持ち。
その全てを胸に、差し出された一輪の紫のバラへとマヤはそっと手を重ねる。

クリスマスイヴの聖なる今宵。
今二人の手の中で、確かに一輪の紫の薔薇は未来への誓いをたてた。


ただ静かに。

けれども、世界中の何よりも強く。













12.30.2009





<FIN>







◆あとがきとか言い訳◆
えー、ただいま12月30日午前0時。
クリスマスイヴなぞ、はるか彼方となっております。
なんとオマヌケなクリスマスバナのUPとなったのでしょう。お恥ずかしい限りです。それでもお付き合い下さいまして、ありがとうございました。

ほのぼの、と言っても付き合っているわけではない二人、というシチュが大好きだったりします。ラブラブって言うよりも、ちょっと口喧嘩しちゃってるぐらいの二人が。そんなこと出来る相手、お互い同士しかいないのだけど、それと恋心の間でゆ〜らゆらゆら揺れてるようなのが好きです。

突然3年ぶりに復活してしまった2009年、こんな私ではありますが本当にお世話になりました。
どうぞ皆様にとって、そしてガラカメにとって実りある(前進ある)素敵な2010年になりますように!






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