□□第7話□□





written by キティ

 

 
 


マヤはあれが真澄だと一瞬、気が付かなかった。
ここには真澄より体格のいい人間が沢山いる。
真澄は日本では大抵人より頭がひとつ出ていた。
だから人込みにいてもすぐ真澄を見つけられたのに…。
でも、ここに来るまでマヤは自分より倍はあるだろうと思われる、背格好の人を見過ぎて感覚が鈍っていた。
それにそこにいる真澄らしき人物はマヤが見慣れていたスーツ姿でもなかった。
ラフなチェックのシャツにチノパン姿。湖畔のボート置き場に手漕ぎボートのロープを繋げようとして背を向け膝をついてしゃがんでいた。

「あっあのー 速水さ…ん?」

もし違う人だったらどうしよう?!
違っても英語じゃ「人違いでした、すみません」と言えない。
でも手紙に書いてある住所はたぶんここ。他に家も見当たらないし…


最初、真澄にこの住所を教えてもらった時は愕然とした。
嬉しい!よりもその場所に無事にたどり着けない!と思った。
だって自分の想像を絶する場所で真澄はマヤを待っていると手紙をよこしたのだ。

だから聖さんに少しだけ手伝ってもらった。
そう、そこは美しい湖が沢山存在する事で知られる外国。
そして聞いたこともないような地名。調べたら湖の名前と地名が一緒だった。
聖さんに向うの空港に着いてから真澄のいる場所までの行き方を調べてもらった。
ちょっとお金と時間がかかるけど、一番安全な方法を教えてもらった。

聖さんにそこまで付き添ってもらうのはさすがに気が引けたし、もう自分は紫のバラを貰わなくても十分に大人になったのだ、と認めてもらいたくて、ここは自分の力で行かなくちゃ!っと無謀にも観光地でもない外国の郊外にマヤは1人で行く決心をしたのだ。
道中、マヤはどうやらまだ未成年だと思われたらしく、皆に親切にしてもらった。
そして幸運にも間違えることなく真澄の待つ、この場所に到着したのである。


                                        


数年前の「あの日」。
真澄からはっきり「嫌いだ」と言ってもらい、気持ちを整理したい!
そう思って社長室に入った。
ところが、マヤは真澄から意外な答えを貰ってしまった。

「愛している」と。

そして、母親の事や、色々な場面でマヤを傷つけてきたことを許して欲しいとも言われた。

それからは真澄が「紫のバラのひと」だと、どうして分かったのか?などマヤの書いた手紙のことで色々話しをしていたら、あっという間に1時間経ってしまった。
マヤは水城に1時間を越えそうなら声をかけて欲しいと言われている、と真澄に伝えると「もっと話したいが、何時間話しても足りないから、今はここで止めておこう。」と言われ、「今日マヤに会うまでの数日間色々考えた。時間はかかると思うが、紫織さんと離婚して必ずマヤと一緒になれるようにしたい。」と言ってくれた。

マヤはあまりに突然のことでビックリして、泣いてしまった。
正式に離婚が決まって、マヤに迷惑がかからないようになってから必ず連絡する、それまでは今まで通り個人的に連絡は取らないし、離婚できるのがいつになるかは分からないがそれでも待っていてくれるか?と言われ、マヤはただ、頷くしかなかった。
そして帰ろうとして席を立ったマヤは真澄に呼びとめられ、それが約束の証であるかのように…強く抱きしめられた。


そして、マヤが思っていたよりも早く、真澄はマヤを待つ場所を聖を通して教えてくれた。
本来ならマヤを迎えに行くのが筋だが、気持ちの整理もしたいし、なにより二人のことを知らない場所で暮らしたいので先に行って準備して待っている自分を許して欲しい、と手紙には書いてあった。

マヤは真澄が紫織と離婚した事はあの日に話しをしていたので驚かなかったが、大都芸能を辞めた事と速水の姓を捨てて「藤村真澄」に戻ってしまった事には腰を抜かすほど驚いた。
ただ紅天女の上演権だけはそのまま真澄個人の所有になっていた。


                                        


湖の水面がきらきら光って、ゆっくりこちらに振り向いた人物の顔がマヤにはすぐ確認できなかった。
でも、あの柔らかそうな栗色の髪。忘れる訳が無い。
あれは絶対、真澄だ。
でも目が慣れて、よく見ると真澄は不精ヒゲを生やし、少しふっくらした様だった。

(えっ?あれが本当に速水さん??ヒゲがはえてるぅぅ)

マヤはビックリしたが、真澄はマヤを見つけると今までに見たことの無いほどの優しい微笑を向けてくれた。

マヤは真澄のその笑顔だけで全てが分かった。
もう、これからは悩んだり、不安に思う事が無い人生が始まるのだと。
マヤは何も言えなくなった。そしてこれから始まるであろう幸せを思って泣いた。

嬉しくて、嬉しくて、マヤは真澄に向って駆け出して行った。












04.13.2006





<FIN>












□キティさんより□

書き終わりました。
最後まで読んでくださった方、本当に有難うございます。

真澄さんに大都を辞めさせて
速水の姓を捨てさせてしまって、
掟破りなことをしてしまったような…
でも全てを捨て、マヤのために生きる
真澄さんが書きたかったのです。

杏子さん、
この度はこの様な場を与えて下さり
本当に感謝しています。
有難うございました。
これからも杏子さんの作品を
楽しみにしています。







□杏子より□

メモなどに書き連ねられたというマヤらしい手紙にとにかく引き込まれました。
マヤの文体がとても自然で、本当にすぐ側で喋りかけているようで、 けれども砕けすぎず、共感したり、 マヤちゃんを抱きしめてあげたくなったり、まさに自分こそが手紙を 読んでるマスになりきってしまいました。
ラストシーンは、海外へ! なんとドラマチックなのでしょう。
勝手にスイスの湖畔を想像してました。(笑)

マヤちゃんからの手紙というお題をもとにしての完結編、大切に大切に読ませていただきました。
キティさん、本当にありがとうございました!
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