| 転生 3
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| written by cocco
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「その話を、聞かせてはもらえないだろうか?」
その言葉にキョーコはじっと真澄の目を見ると、口をつけていたカップをテーブルの上に置き、俯き小さく咳払いをして、背筋をピンと伸ばし姿勢を正すと一呼吸して顔を上げ、真澄へと再び目線を戻す。 「…それじゃ、説明させてもらうわ。」 ― これが、同一人物なのだろうか? そう、疑いをかけたくなるようなその表情と、話し方、相手を射るような視線。 先ほどまでとは全く異なる彼女に、部屋の中が暑いわけでもないのに背中にじわりと冷たいものが流れる。 彼女のまわりの空気に圧倒され、言葉を発することも出来ないまま、次の言葉が出るのをじっと、待つ。 「過去に、戻ることは結論として可能なの。そう、あなたの場合は強く後悔している三年前の出来事、あの日まで戻って、その後悔している行動をなかったことにするわけ。ただ…、その三年前に戻ってもう一度やり直しをしたとしても、今、ここで後悔しているあなたも、存在することになる。」 …どういう意味だ? 過去に戻って、全てをリセットすればそこからまた未来が続くのではないのか? 今のこの状況が変らないとしたら、過去に戻る必要性などないだろう。 膝の上で組んだ指に、色が変るほど力が入る。 そんな真澄を、無視するかのようにキョーコは話を続ける。 「要するに、二つの現実が存在することになるの。今、あなたがここでこうしているこの次元を表として、三年前に戻ってやり直す次元を裏とするでしょ?この表と裏は同じ時間軸で動いていてどちらも現実なの。今この時間は裏でも同じ時間がまわっていて表でこうしているあなたと、裏で現実を生活していることあなたがいることになるわ。つまり、もう一つの現実を、未来を作ることになるの。」 こんなことが、あるのだろうか。 SF映画ではあるまいし、二つの世界を作ることなど、信じられん。 オレは変な夢でも見ているのか? 話を聞いてから、一言も話さず瞬きも忘れている真澄を見て、キョーコはクスッと笑うと 「ま、裏に行くか行かないか決断するのはあなた次第だから。最初に言ったでしょ?私はどっちでも構わないって。ただ、あんまりにもあなたが過去に戻りたがってるみたいだから一つの選択として提案しただけだからさ。いきなりこんな話、信じろって言うほうがムリだろうし。別に、急いで決める必要はないから。あ、けどできれば一週間ぐらいで決めてくれると嬉しいかなぁ。」 そう言い、テーブルの上のコーヒーを手にとった。 「がぁ〜、冷めちゃったよぉ、コーヒー。」 口調が戻ったキョーコに少し安心し、固まってしまっていた口が開く。 「まぁ、信じる、信じないということは置いておいて…。質問があるのだが、いいか?」 キョーコは、お、きたかと言う顔をして 「どーぞぉ♪あ、灰皿もね。」 そう言い、真澄の前へ灰皿を置く。 「失礼…。」 キョーコがコクっと頷くと、真澄は中毒患者のように慌てて煙草に火を点け、一分経っていないのではないかという勢いで一本目を吸い終わる。 二本目の煙草を一口吸って煙を吐き出すと 「まず一つ目。君の説明だと、表と裏の現実が同じ時間軸でまわっている、ということだが、その表と裏がまた一つになってしまうことはないのか。二つ目は、もし、オレが三年前に戻るとしよう。その時は、この表の世界での三年間の記憶というものはなくなってしまうものなのか?」 そこまで言うと煙草を深く吸い込み、答えを待つ。 キョーコは暖めなおしたコーヒーを自分と真澄のカップに注ぎながら 「やっぱり、いいとこついてくるわね〜。お答えしましょう!二つ目の質問からね。もちろん、過去に戻るんだからこの三年間の記憶なんてトーゼンなくなっちゃう。で、一つ目の質問なんだけど、ない、とは言い切れないかな?それは…そのないはずのこちら側の記憶を裏のあなたが、思い出しちゃったとき。次元に歪みが生じて表と裏が交差しちゃうの。まずないんだけどね、絶対じゃないから。」 …やはり、そうか。 あの日から三年間の記憶がなくなったまま、戻るとしたらそれでは―。 「ということは、裏側…三年前に戻ったとしても、今と、表と同じ行動を裏でもするということも考えられる、というわけか。」 白いカップから暖かそうな湯気の出ている、注がれたコーヒーに手を伸ばす。 「そういうこと。だから、ま、ちょっと考えてみてよ。けど一つだけいえることは、もし裏側に行ったとしても、行かなかったとしても表のあなたは、そのままってこと。」 ![]() とりあえず、少し時間が欲しいと言葉を残し、一週間後にまた、ここへ来る約束をしてその部屋を後にした。 来た時はまだ、明るかった空もいつのまにか街灯がともっている。 昼間より目立つ、ここへ来る目印だった『FUWA☆FUWA』の星を横目に、このまま社に戻っても仕事などできないだろうと考えそのスナックの扉を開けた。 「いらっしゃいませ。」 カウンターだけが15席ほど横長に並ぶその薄暗い店内は、今の気分を妙に落ち着かせるものがあった。 「どうぞ。」 まるでオレがそれを注文するのを知っていたかのように、ブランデーのロックを目の前に静かに、置いた。 びっくりしてその、水商売らしくない短く切り揃えられた爪の主を見ると、清潔感のある風貌に綺麗に後ろにまとめられた髪、年もオレより若そうだが… 初めてみる顔だ。 「キョーコちゃんのところへ、行ってたんですね。」 どうして知っている? あの、キョーコといい、このふわふわと名乗るママといい、なぜオレの行動を知っているのだ? …でも、もうそんなことはどうでも良くなってきた。 一度に不可解なことがおこりすぎて、正常な思考回路など、どこかへ飛んでしまっている。 何も言わずに出された、そのブランデーを傾けながら 「そうだ…」 とだけ、呟いた。 その言葉に微笑むとそれ以上、彼女は何も話さなかった。 先ほどの会話を思い返す。 三年間の記憶を失って、またあの日に戻ったとしても果たして今度はマヤを受け入れることができるのだろうか? わからない。 あの時のオレは『全てがもう遅い』とそれ以上のことは考えられなかったのだから。 二つの現実で二人のオレがいて、その二人ともが同じ思いで苦しむのは…想像しただけでも、身震いする。 でも、もし、過去に戻ってマヤの気持ちを受け入れ幸せな未来を手にすることが出来るのであれば…いや、それを手に入れたいからあれだけ強く、過去に戻りたいと思っていたのではないのか? 一週間も、考える理由など、ない。 今すぐにでも、あの三年前に戻って彼女をこの手に抱きしめよう。 ブランデーを一気に飲み干すと慌ててコートを取り、金を払おうと財布を捜す。 「新たな出発ってことで、サービスしますよ。さ、早く。」 そう微笑む彼女に軽く頭を下げ、店を出ると一気に階段を五階まで駆け上った。 503号室のドアの前まで来て、深く深呼吸しドアを一気に開けようとしたが、ロックがかかっている。 あぁ、そうだった。 先ほどと同じようにトン・トン・トトトン、とノックすると 「はいは〜い、待ってたよぉ。」 ロックが、カチャリと音を立て外れた。 「案外、早かったねぇ。じゃ、早速…」 リビングのソファに通され、そこに座るよう促される。 「じゃ、目を閉じて…あなたが戻りたい三年前の過去を思い出して…」 そう言われる通りに目を閉じた。 毎晩のようにベッドで思い出し後悔したあの日を思い出す。 …でも、一つだけ確かめたい。 パッと目を開け目の前にいるキョーコの腕を掴む。 「オレは、オレは運命を変えることができるのか?」 その問いかけに、キョーコはこれ以上ないほどの笑顔で 「運命なんてね、」 と両手のひらでオレの目を目隠しした。 すると、急に先ほどの酒がまわりはじめたかのように心臓が早鐘のように鼓動を打つ。 「後出しの予言と変らないんだよぉ〜だ!!」 その瞬間。 両肩を、バンっと強く叩かれ、目の前が真っ白になる。 …なんだ?なにも、変ってないじゃないか。 ゆっくり目を開け、目の前のキョーコを怪訝そうに見ると 「だから、今の、表のあなたは何も変らないしそのまんまだ、って言ったでしょう ?」 そうか、そうだった…。 過去に戻る、というよりもう一つの現実を作る、ということだったからな。 ― もう一つの現実の世界…裏側。 オレは運命を変えることが果たして、出来たのだろうか? ![]() ― 深夜の社長室。 いつのまにか眠ってしまっていたらしい。 部屋のドアを、ノックする音で目が覚めた。 「誰だ?こんな時間に…」 突然の訪問者は、どうみても泣きはらした腫れぼったい顔でやってきた。 「あなたが好きです。愛してます。 もう、あのきれいな人と結婚することも分かってます。今、こんなこといってあなたを困らせるつもりじゃないんです。でも、どうしても伝えたかった…」 絶対に聞くことの出来ないと思っていた言葉。 まさか、彼女が自分と同じ気持ちだったとは…。 でも、なぜ今なのだ? 一週間後には鷹宮紫織との結婚が迫っている。 疲れきったその目を閉じ、心を落ち着かせるよう煙草を一本震える手で取り出し口に咥える。 ライターで火を点け、一口吸うと 「…いつ、からだ?」 煙を吐き出しながら、彼女に近づく。 「いつ、って…いつの間にか、です。そ、そんなこと、今、言わなくっちゃダメですか?」 なんとも彼女らしい答えだ。 でも、本当なのか? 信じられない…が、目の前にいる彼女の様子を見ると、どう考えても嘘を言っているようには、見えない。 手に入れることなど無理だと思っていた彼女。 その長年の想い人である彼女が、こうして想いを告げてきた。 あと一週間で、結婚? …そんなもの、どうでもいい。 全てを捨ててでも、一番の望みの彼女を手に入れることができるのであれば、それでいいじゃないか。 短くなった煙草を灰皿へと押し付けるとゆっくり彼女の前まで歩き、その腫れぼったい瞼にゆっくりと指で触れる。 「…困ったな。」 彼女はその小さな肩を、びくりと上げたかと思うと今度は何度も大きく頭を下げながら 「ゴメンナサイッッッ…。そうですよね、アタシみたいなのなんかから、好きです、なんていわれても困っちゃいますよね。ホンッとごめん…なさい…。」 そういう彼女の言葉は、最後には涙声で聞き取れないぐらいに小さなものだった。 そんな彼女の小さな肩を腕の中に閉じ込めると 「…この後、キミを家に帰せそうもない自分に、困ってるんだ…。」 腕の中の彼女が、パッと顔を上げる。 「は、速水さん、それって…どういう意味?」 まだ、涙の流れる大きな瞳を瞬きもせず、オレに向けてくる。 そんな彼女の唇に顔を近づけると、悪戯っぽく、囁いた。 「その理由を、今、言わなくっちゃいけないのか?」 その答えを待たずに、オレは彼女の小さな唇を塞いだ…。 ![]() ― それから三年後。 あと挙式まで一週間、というとところで婚約破棄した相手、鷹宮紫織も一年前にどこかの、財閥の御曹司とやらと結婚した。 いろいろと、大変ではあったが、一番大切なもの、守るべきものを手に入れたオレにしてみれば、その後の事後処理に走り回ったことなど、今はどうでもいい。 隣で寄り添い、屈託のない笑顔でオレに笑いかける彼女…マヤ。 今日は、晴れて彼女と入籍を済ませた。 式などは、彼女の希望で特にせず (オレとしては、したかったのだが。) 役所へ二人で婚姻届を出しに行き、二人きりで最近出来た評判の店で夕食をとった。 「おいしかったね!…おいしくって食べ過ぎちゃった…ねぇ、少し散歩しよう!」 そう言って、店を出た後スキップしはじめた。 全く…お子様だな、といってもそんな彼女に惚れているのだが。 自分自身に苦笑すると、彼女を追いかけ、その手を繋いだ。 しばらく歩いていると見覚えのあるバーが視界に入り、足を止める。 来た事もないはずだが… なぜか、懐かしい。 そんな様子を見て、マヤが不思議そうに 「ここの店に入りたいの?」 と、顔を下から覗き込んでくる。 この店に入りたい? いや、入りたいというより入らなくてはいけないような、気持ちがしてくるだけだ。 「あ、いや…入りたいというわけではないんだが…。」 真澄にしては歯切れ悪く繋ぐ言葉に、マヤは何かを感じ取ったのか 「うーんっと、じゃ、アタシが入りたいから、入ろうよ!このお店!!」 と言って、強引に店のドアを開けた。 薄暗いその店内に入ると、何も言わずに出てきたブランデー。 そして、マヤにはスプモーニが出される。 マスターは、小さく頭を下げシンクの方へ向かうと、オレ達が入ってくる前からそうしていたのだろう。 ロック用の氷をガシャガシャと丸く、器用に削り始めた。 「速水さん、すごいね!何にも注文してないのに、きたよぉ。」 すごーぉい、とクスクスと笑いながらそのピンクのようなオレンジ色のカクテルが入ったロンググラスに、マヤは手を伸ばす。 オレもブランデーのグラスを手に取りマヤのグラスに合わせようとした、瞬間。 「いや〜、幸せそうな顔しちゃってぇ。結婚オメデトー!!じゃ、カンパ〜イ♪」 と、二つ左に離れた席から突然、腰まで届くような長い黒髪の知らない顔の女が乱入してきた。 オレとマヤは顔を見合わせて首を傾げたが、まぁ、今日入籍記者会見をしたからオレ達の結婚を知っている人は、たくさんいるだろう。 奥の席で、見知らぬ男が頭をうな垂れマスターに話し掛けている。 「…これが、オレの運命なのか?」 その男を帰り支度をはじめていた先ほどの女が、横目でチラッと見てクスリと笑い 「運命なんて、後出しの予言…言い訳と変わりないのにね。都合の良いことも、悪いことも全部が終わったら、大抵こういうの…」 出口に向かい、ドアを半分開けたところで長い髪を揺らし、首だけくるりとこちら側に向けると 「ぜーんぶ、運命だった、ってね。」 2.20.2003 ![]() □coccoさんより□ 杏子ちゃんの『天使が堕ちた夜』を読んで、オイラもファンタジー系のお話書いて みたい!と、書いたはいいのですが書き終わってみたら 「なんじゃ?こりゃ?ファンタジーじゃねーべ?」 と激しく一人で突っ込んでしまいました。 こんな駄文に快く出 演を許可してくれた杏子ちゃん、ふわっち、愛してるよぉ☆ 余談ですが、これ作文中 にずっと聞いてた曲あって、メアリー.J.ブライジの『NO MORE DRAMA』(一年前 ぐらいの曲なんですが)もし、よかったら、聴きながら読んでくれたりしたら…嬉し いです(笑) 今回も、ステキな壁紙ありがちゅ♪杏子ちゃん☆ ![]() □杏子より□ いやぁぁぁぁぁ。。。先の読めないお話で、びっくら!!しかも、タイムスリップ系??今までにないcoccoちゃんの芸風にただただ、感嘆!!読み終わった瞬間、その昔タモリさんホストの某番組の音楽が流れてきてしまいましたよ。 「いかがでしたか?もしかしたらあなたにも裏側…いや今のあなたが裏側で生活しているのかもしれません」(by coccoちゃん) なんちゅ〜こわぁぁぁい、台詞が聞こえてきそうだよ〜ん! しかし、なんと言っても突っ込み所は、謎の女・キョーコだよねぇ。かっくいいでないの!!杏子の『天使が堕ちた夜』の天使ちゃんを彷彿とさせますね。そうか、天使ちゃん時間も管理してたのか…。いやぁ、いい仕事した気分になって今晩あたり一杯ひっかけてしまいそうな、キョーコでした☆ coccoちゃん、楽しませてくれてありがと〜〜〜!! 愛してるよ〜〜〜!! ![]() |
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