| 真夏の夜の星の下
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| written by kineko
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時計の針がもうすぐ天を指し一つに重なろうとしている時、やっと打ち終えたメールを送信できた。 書き終えるまでに何度も書いては消し、言葉を選び直し、納得いった物が書けたのに間違って消したりで、気がつくとこんな時間になっていた。 書いている内容はどうって事のないものだ。詫びの文章でもなければ、感謝の言葉でもない。 ただ、今日あった事、思ったことをつらつらと書いてあるだけだった。加えていうなら長文でなく、ほんの数行のメール。 『こんばんは。もうお仕事終わりましたか? 今日、あたしは今秋始まるドラマのポスター撮りをしてきました。 あ、速水さんは知っていますよね。昭和初期の下町を舞台にした人間模様を描くドラマです。 あたしは理髪店の一人息子のお嫁さんで、4歳の女の子のお母さんになります。 この子役の子がね、すっごく可愛いの。おかっぱでさらさらの黒髪で にっこり笑うと周りが和む感じのいい笑顔をするの。 他の共演者の方達もその笑顔につられて笑顔になり、とってもいい雰囲気の現場になりそうです。 明日は夕焼けの撮影があります。昼ごろ家を出ればいいので朝寝坊できそうです。 マヤ』 ぐーんと伸びをし、大きな欠伸をすると肩の力がふっと抜けた気がした。飲みかけのまますっかり冷めてしまったミルクティーを口に運ぶ。 なれないキーボード操作で緊張していたのか乾いた舌の上に流れ込む甘い味が心地よい。鼻腔を紅茶の薫りが気持ちよく抜けていく。 パソコンの電源を切って寝ようかと、マウスに手を伸ばした時に、メールの着信を知らせる音がポンと鳴り、封筒のアイコンが表示された。 ”1通の新着メッセージ” その文字を見るだけでドキドキ胸が高鳴ってくる。 受信トレイを開く。 送信者”masumi hayami" 件名”シンデレラへの手紙” 『君からのメールなんて珍しいな。いったいどういう風の吹き回しだ。 件名が書かれていなかったから何事かと思ったが、中身を読んで、ほっとしたよ。 今、仕事から帰ってきてパソコンを立ち上げたところだ。 ポスター、出来上がったら真っ先にみせてくれないか? 君がどういう”おかあさん”に写っているか楽しみだ。 子役の子は、どこか君に面差しが似ているね。人を惹きつける微笑というところも似ている。 お仕着せでない、自然と沸き起こる和みの雰囲気というものは大事にするといい。 きっと、君にとってもかけがいのない作品に仕上がるだろう。 出来上がりが今から楽しみだ。 何でもいい。たまにはこうしてメールをくれないか。送信者”maya”という文字を見ることが こんなに胸を躍らせるものとは知らなかった。 真澄』 送信から数分後に届いたメールは、自分が掛かった時間の何分の一かの短時間で書かれたものにも関わらず、同じくらいの想いが込められていた。 ポツポツとキーボードを叩きながら返事を書いているとポンとまた着信を知らせる音が鳴る。 『こんな時間まで起きていていいのかい? 明日、撮影があるのだろう。いや、時計の針は二つに分かれてしまったから、 今日の夕方、ロケがあるんだね。 このメールを見るのはそのロケが終わった後かもしれないな。 どんなロケだったかメールくれると嬉しいのだが… 気が向いたときにまたメールをしてくれ。 待っている。 真澄』 とりあえず打てた分を送る。 『夜更かしシンデレラです。』 件名など付けている余裕などない。今まだ起きている、パソコンに向かっているという事を伝えたくて急いで送った。 返事がくるかドキドキしながら、ミルクティーで乾く喉を潤す。 二口三口飲み画面を見つめているとポンと着信の表示がでる。 『こんばんは。メール操作は慣れたかい? 今夜は夜風が心地いいね。』 クーラーの冷気が苦手なので窓を開けて風を入れていることを知っていてくれている、身近な人だからこその挨拶文。 すぐ傍で話しかけられたような、そんな心持にさせられる。 開け放たれた窓の外を見ると、偶然星が流れるのが見えた。すごく嬉しくなってメールを書く。 『今、流れ星を見ました。明日晴れますように。』 送信をクリックし、送受信されると一通の新着メッセージ。 『今、流れ星を見ました。明日、晴れますように。そう願いました。美しい夕焼けが見られるといいね。 紅色に染まる風景の中の君はきっと綺麗だろうな。 出来上がりの映像が楽しみだ。』 ほんの一瞬の出来事を離れた場所で同じように見て、同じ事を思ってくれる人がいる。 パソコンという無機質の塊が俄かに温かみを帯びたものに思えてくる。 『あなたも夜空を見上げていたんですか?』 『たまたま、だ。偶然にも君が見ていた流れ星を一緒に見ることが出来て嬉しい。 またいつか、今度は俺の傍らで一緒に見てくれないか?』 『もちろん見たいです。』 『必ず、二人で見よう。輝く星座も君と眺めると一段と綺麗に違いない。』 『いつぐらいになるかな?』 『俺は今すぐにでも君と一緒に見たい… そうだな、夏が終わるまでには一度ゆっくり夜空を眺める時間を作ろう。』 『約束ですよ。』 『ああ、俺は約束を守る男だ。君もよく知っているだろう。』 『はい。』 『素直でよろしい。ご褒美に今度のデートの時にはデザート3個にしてあげよう。』 『そんなに食べません!あ、やっぱり食べるかも・・・』 『3個でも足らないかもな。』 『ひどおい!!!!!!』 小さい”ぉ”の打ち方がわからなかったので”お”になってしまった。キーボードとにらめっこしながらポツポツと時間をかけて打った文に速攻で返事をくれる。 すぐに返事が返ってくるというのがすごく嬉しかった。 『今、甘いミルクティーを飲んでいます。』 『俺は水割りを・・・ではなく、 君がこの前買ったまま飲まずに置いていった缶入りのレモンティーを飲んでいる。』 『間違えて買っちゃったアレですね。』 『意外と美味しい。また買ってきてくれないか。』 『いいですよ。でも珍しいですね。速水さんが紅茶飲むなんて。』 『なぜかな。今夜はこれに手が伸びてしまったんだよ。 離れている君と同じように紅茶を飲み、 同じ星を見る。 不思議な感覚だ。』 鼓動が一際大きく波打つ。同じ事を自分も考えていた。 心の声を目で見る。そういう行為自体も不思議な感じである。 茶化すつもりはないのだが、つい、気になり尋ねてみた。 『打つの、速いですね。それに』 『それに何だ?続きが気になる。』 『メールだといっぱい話してくれますね。』 澱みなく続いていたメールが、途切れてしまった。気分を害してしまったのかと心配になり、”ごめんなさい”と打とうかとキーボードに手を伸ばしかけたとき、 着信の知らせが入る。 『打つのが速いのは普段から使っているから慣れているだけだ。 口に出すのが憚られる言葉も文字にすると、意外とすらすらと出てくるようだ。 君といるときは他の誰よりも話しているつもりだが、 それより話しているというなら、目の前に君自身がいないせいだろう。 言葉で思っている事をすべて伝えたいという気持ちがあるからだ。それに』 それに―――なんだろう?気になるところで切れている。 迷った末に、こう送った。 『?』 数分後に送られてきたメールにはこう書かれていた。 『目の前に君がいたならば、きっと口を塞いでしまっているだろうから、 こんなにお喋りは出来なかっただろうね。』 パチパチと瞬きをして画面の文字を見直してみる。書かれている文字の意味を脳が理解した途端に一気に顔が火照り出す。 なんと返事を書いていいものか、少し考え、短くこう書き送る。 『ありがとう。』 瞬時に返事が返ってくる。 『こちらこそ、ありがとう。 このまま続けているとシンデレラからジュリエットに代わりそうだね。 東の空が薄紫に変わる前に、雲雀が鳴く前に、 夜空の星が瞬いている間に シンデレラはお布団へお入らないと、 明日、紅色に染まる事が出来なくなるぞ。 楽しい時間をありがとう。 またメールをしよう。 おやすみ、マヤ。 真澄』 貰ったメールのような気の利いた言葉は綴れないので、こう一文を打ちこみ、送り電源を落とした。 『明日またメールします。おやすみなさい。 マヤ』 8.10.2003 ![]() □kinekoさんより□ ふと見上げた夜空の星の瞬きがあまりに綺麗だったので、書いてしまいました。 ![]() □杏子より□ ガラカメラーの聖品のひとつ、”星”をお題に一品献上していただきました。絶対、いつか、星のお題はくるだろう、とこの壁紙も随分前から捕獲しておりました。(だったら、自分で書けの突っ込みはあっさり却下)使えて嬉しいよ〜。 口下手な速水さんが、メルでは饒舌。なんか納得です。きっとそうなんだろうなぁ。たどたどしいマヤちゃんも、初々しくて微笑ましい。 やっぱり、星空の下にはロマンチックな恋人のお話が似合いますね。 kinekoさん、ありがと〜〜! ![]() |
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