| 太陽と月に背いて 〜エピローグ〜
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2012年5月21日
午前7時。辺りは明けたばかりの夜空が、少しずつまた暗くなっていく。 「ど、どうしよう…。ドキドキしすぎて、死にそうかも…」 マヤは、特別なフィルムを使用して出来た、紙製のサングラスを何度も目に当てては空を見上げる。 「瞬きしてる間に見過ごしちゃったりしたらどうしよう…。ねぇ、何分ぐらいなの?それ…」 「日食自体は、もう40分も前から始まってるぞ。太陽が欠けてるのが見えるだろうが…」 そわそわと落ち着かないマヤをたしなめるように、真澄は言う。 「え?嘘?!」 マヤは慌てて、紙製のサングラスごしに目を凝らす。 確かにそこには、少しずつ欠けていく太陽が見える。 (欠けた太陽を見るなんて…) なんともいえない、不思議な感覚にマヤは包まれる。 もうすぐ、地球と太陽と月が一直線に並ぶ、不思議な奇跡が訪れる。 地球が月の影に入ることにより、月が太陽を覆い隠す。 太陽と月、その二つが重なり合う神秘。 二人は金環食を待っていた。 9年も前から待っていた…。 太陽の指輪を…。 午前7時30分。 辺りは、いよいよ暗くなる。太陽の光が届かなくなった辺りは、突然ぐっと気温が下がる。 突如訪れた夕刻のような闇に、辺りの鳥たちは恐れをなして、飛び立つ。 「あ、鳥がもう飛び立ってる…。夜がきたと思っちゃったんだね」 二人以外は誰も居ない大都芸能の屋上で、マヤは群れをなして飛び立つ鳥の一筋を眺める。 「ああ…、太陽が三日月になってる…」 どんどんと、削がれるように薄くなっていく太陽に、マヤは感嘆の声を上げる。 「写真、撮れるかな…」 そう言って、おろおろとカメラを差し出すマヤに真澄は苦笑する。 「マヤ…、写真なんか撮ってる暇はないぞ。撮っても写ってない可能性の方が高いんだ。 じっと見ていろ…。その目に永遠に焼き付けるように…。 一緒に見よう…」 そう、とても熱い視線で言われた瞬間、真澄の顔にも三日月の影がさす。 辺りはいよいよ闇に包まれる。 自然と暗闇の中で、二人はお互いの手を探す。探し当てたその暖かな手をきつく、絡めあう。 訪れる奇跡への興奮が、お互いの手を伝って、体内を行き来するような感覚。興奮のさざなみがくまなく、二人の体を包んでいく。 お互い、言葉が出ない代わりに、何度も何度も、その手を握り直す。今、確かにすぐ隣にあるその存在を確かめるように…。 太陽が消える瞬間…。 月の影に阻まれた太陽は、わずかな隙間からその眩い光を放つ。 丸く闇に浮かび上がる、金色のリング。 何も言葉にならない瞬間…。 太陽にも月にも背く関係を持っていたあの頃、形にならない永遠が欲しかった。 太陽を見ることも、月を見ることも許されなかったあの頃、二人の上に永遠の光が差すことを夢見た。 太陽と月が一つになるその瞬間、二人は一層強く、手を握り合う。 マヤの左手に永遠の居場所を見つけた、金色の指輪を真澄の指が探り当てる。真澄の指が、金の指輪の周りを一周しながら、その内側に刻まれた言葉を囁く。 ━あなたを、永遠に愛します━ 奇跡の太陽のリングが、今二人の目の前で、永遠の光を放つ…。 ━あなたを、永遠に愛します━ 4.23.2003 ![]() 「太陽と月に背いて」全18話+α、ここに完結!! なんと、なんと、長い連載だったのでしょう!!2003年の2月の26日に始まった連載でしたが、目標であった2ヶ月以内に完結!は果たすことができて、感無量です。言うまでもなく、杏子の書いたお話で一番長いお話になりました。 エピローグまでお読みいただければ、杏子がこのタイトルにこめた思い入れをお分かりいただけたのでは、と思います。このラストシーンとこのタイトルは最初から1セットになっていまして、ずっとずっと、これだけが書きたくて、がんばってきました。ちゃんと辿り着けて、本当に嬉し涙でございます。 ”不倫”がテーマのお話でしたが、杏子自身はマヤちゃんには出来る限り、不倫はして欲しくないですし、似合わないと正直思います。けれども、常日頃から私が思っている、ある愛の形を表現したくて敢えて、この設定を取りました。 究極の選択で「愛することしか出来ない人生」と「愛されることしか出来ない人生」と、二者択一しなければならないとしたら、どちらを選ぶか?杏子の答えは、絶対に前者です。 究極的に言ってしまえば、愛は与えるものでしかなくて、貰うものではないと思うからです。だから、どれだけ人に反対されようと、倫理的に間違っていようと、どれだけ報われないものであったとしても、”愛すること”だけに盲目的に生きる人生というのは、何か一つだけ欠落している人生よりも、ずっと幸せだと…。実際は、イロイロ奇麗事では済まされなくて、難しいんですけどね。でも、理想の二人にはお話の中だけでも、そんな二人で居て欲しいと思いつつ、書いていました。 苦労話はこのお話に関してはつきませんが、書き終えてしまえば、今は嬉しい気持ちと充実感だけでいっぱいかも…。色々書いてやろう!と思ってたのに、そんな苦労ももうどちらでも良いような心境です。 こんな長いお話に最後までお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました!! 完読記念に、いつものように帰り道でポチっと一言感想を頂けると、また次回作、張り切ってしまうかもです。よろしくお願いします。 |
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