第7話・最終話




  全てが白銀に覆われ、雪に反射する光の粒がキラキラとどこまでも眩しい朝がやってくる。まるで世界の美しい瞬間を凍らせたような、とても静かな朝だった。

 緩やかな拘束──。
 マヤは自分の体に回された真澄の腕を辿り、まだ眠りの世界に居る、その美しい寝顔を見つめる。こんなに間近で寝顔をじっくりと見るのは初めてだ。とても 穏やかで美しい。寝顔すらもこんなに美しいのかと、溜息が出そうになる一方で、あれほど激しく自分を抱いたその人の無防備な姿に、どこか胸が締め付けられ る。ついに自分はこの人のものになり、そして自分もまた本当の真澄に触れる事ができたのだ、と……。

「起きたのか?」

 マヤの気配を感じたのか、真澄がゆっくりと瞬きをして目覚める。すぐに額に短くキスをされ、これは夢ではないと言われたような気持ちになる。

「おはよう……ございます」

 至近距離で言うそれは、猛烈な照れを誘う。

「体は大丈夫か?」

 マヤの頭を抱く真澄の左腕が、ゆっくりと髪を撫でる。まるで昨晩から続く愛撫の続きのように。

「君がもっともっと、とあんまり欲しがるからついやりすぎた」

「は? 何言ってるんですかっ? それを言うなら速水さんが、まだダメだとか、まだ離さないとか言って、眠らせてくれなかったんじゃないですかっ! 私は初めてだから知りませんけど、あんなに一晩に何回もって普通なんですか?」

 からかわれたというのに本気になって噛み付くのはこんな時でも変わらない。案の定、真澄はクスクスと笑っている。

「普通だ」

 涼しい顔で真澄がこともなげにそう言い放つと、マヤはゾッとして絶句する。そんなマヤの様子を見て真澄はまた笑う。

「俺が君を抱くなら、それが普通だ、という意味だ」

「もうっ……!」

 そう言ってマヤはまたからかわれた事に憤慨するように、真澄の腕を叩いた。

「大体速水さんは急なんです。昨日まであたし、速水さんが、その……、あたしのこと好きだなんて、全く知らなかったし、思いもしませんでした。それが急にこんな事になって、今でも信じられないぐらいで……」

「ずっと君が好きだった。それは昨日も言った通りだ。俺は昔から自分の感情を表に出す事が得意ではない。思ってもない事を言ったりするのはいくらでも出来 るくせに、それが大切であればあるほど、本当の事であればあるほど、口に出来ない性格だった。だがそれでも、永遠に君に自分の想いを告げないつもりでいた かと言えばそうではない。紅天女の本公演の後に言うつもりだった」

「どうして?」

 真澄は少しためらった後、ゆっくりと言葉を選ぶ。渋々、手品の種明かしをする、失敗したマジシャンのように。

「事務所の社長が迫ったら、セクハラだろ」

 
あまりにも意外な言葉を聞いた気がして、マヤは目を見開いて驚く。

「君が断れない立場だと思うと、余計に手出しも出来なかった。今、世界的にも問題になっている。大都芸能の社長が若い女優に#me too などとハッシュタグを付けて告発されたらシャレにならない」

「断ります! あたし、嫌だったらちゃんと断れます!!」

 驚きのあまり強い口調でそう言うと、真澄は分かったとでも言うように、また優しく頭を撫でた。

「速水さんこそ、こんなチンチクリンに誘われたら面倒だろうなって、そう思ってあたしも何も出来ませんでした。あのチョコ……、本当は速水さんに渡したかったんです」

 真澄もまた、意外な真実を聞いて驚きの表情で固まる。

「チョコなんて貰っても義理としか思って貰えないだろうし、とか、沢山貰うだろうから迷惑かもしれない、とか、色々考え過ぎて渡せなくなりました」

 昨晩のあの悲しいチョコの味が少しだけ蘇る。

「偶然が重なって、結局速水さんにあのチョコを食べて貰えはしたけれど、たとえ速水さんがこのチョコを全部食べてくれたとしても想いは通じないんだと思うと、凄く悲しかった」

「バカだな……、俺たちは……。呆れるほどにすれ違ってばかりいた。俺は水城君からあの店で君がチョコを買い『ずっと好きだった人に渡してみたい』と言っ たと聞き、君に好きな男が居るのだとそう思った。昨晩、偶然出会った俺を見て、君は神様からのプレゼントだと思ったと言ったが、俺はどうしたって手に入ら ない君が、まるで雪のように俺の前に舞い降りた天使だと思った」

 知りようがなかった過去の真澄の深い想いに触れ、マヤの心は震える。知らぬ間に愛されていたという事実に、そしてその愛の深さに……。

「昨日は誕生日の夜なのに、どうして雪が降るんだろうって思った。星も見えないし、誰もいないし……。渡せなかったチョコレートを食べながら、誰にも知られずに一つ年を取るんだって、そう思ってました。でも……、雪で良かった。雪が速水さんを連れてきてくれた」

「そうだな、雪は好きだ……。大切なものに気付かされる」

 全てを隠すからではない。汚いものを隠してしまうからではない。大切なものを守ろうとさせるからだ。
 
 再び熱を帯びたキスを交わしていると真澄の携帯が鳴った。しばらくやり過ごしたがしつこく鳴り止まないそれは、出るまで鳴らし続けてやるという鉄の意思すら感じた。
 液晶を見た真澄が、眉根を寄せると容赦ない口調で電話にでた。

「おはよう水城君、こんなに朝早くからご苦労としか言いようがないな。なんだね?」

 電話の向こうで水城が何かを早口で言っている。その言葉に真澄は窓の外を見た。

「だったら休みにすればいい。こんな日に仕事をするなんてどうかしてる。今日は休みだ」

 電話の向こうの水城の声が何かを叫んでいる。

「真澄様っ?! 真澄様──」

 かろうじて聞こえたその絶叫すら無視して真澄は通話を切ろうとしたが、思い直したのか、もう一度通話口に出る。

「そう言えば、君の言う通り信号は青だった」

 急に静かになった電話の向こうで水城が何かを言ったようだ。その言葉に真澄は穏やかに笑う。

「ああ、だから渡ったよ。無事に渡れた。ありがとう──」

 かつてないほどに穏やかな口調でそう言うと、真澄は通話を終えた液晶画面をしばらく感慨深げに眺めていた。

「速水さん、大丈夫?」

 やり取りの内容が気になり、マヤは心配な声を出す。

「ああ、大丈夫だ。君が心配することない。首都圏の電車のほとんどが止まっているらしく、出社出来ない社員が多過ぎるから休みにした」

「えっ?!」

 仕事の鬼の口から出る言葉とは思えず、驚いてマヤは絶句する。普段なら這ってでも出て来いと言いそうな所なのに。

「君の予定は?」

「ないです。今日はたまたまオフでした」

「それは良かった」

 真澄の瞳に狡猾で卑猥な光が一瞬差したのをマヤは見逃さなかった。

「な、何考えてるんですか?」

 怯えたような口調でマヤは思わずベッドの上で後ずさる。

「君の事しか考えていない。当たり前だろ」

 そう言って逃げ惑うマヤを懐柔するように、真澄は再びマヤをベッドの上に閉じ込める。

「まだ足りない、全然足りない」
「あれで終わりだと思っていたなら、君も相当甘いな」
「今日一日、君は俺のものだ。この部屋から出る事はない。覚悟しておけ」

 そんな恐ろしく甘い毒をいくつも吐いて……。



 そして雪は止む。
 たった一晩で、世界の全てを作り替えた景色が目の前には広がり、雪の結晶一粒一粒が、二人を祝福するかのように眩い光を放つ。

 文字通り、雪の世界に閉じ込められた二人は、何度も何度も愛を確かめあう。

 今日、君が生まれたことは奇跡だと真澄は言う。
 今日、あなたと居られることは奇跡だとマヤは言う。

 二つの奇跡がやがて溶け合う。
 雪を溶かすほどの熱い情熱と、果てることのない深い愛情でもって──。

 


 2018.3.6



FIN


 











あとがき 


15周年記念リクエスト企画のお話でした。ここでリクエスターの海帆さんからの抱腹絶倒のリク内容をご覧頂きましょう。
(※ご本人掲載許可済み)




****



15周年の記念のこんな素敵な企画に当選したことで舞い上がりまくってました…が、この一週間、ずっと暇さえあればリク内容を考えてまして…。
ぬぬぬ、R18OKと言えど、妄想垂れ流しのピー音満載になったらどうしましょーという懸念とイヤイヤ、きっとエロマス好きは全世界共通、やっておしまいという悪魔の囁きが交互に襲いまくり、ここは杏子師匠に汲み上げていただくしかないかと(←意味不明)。
 
私は前回の誕マス「月の孤独が溶ける夜」のいつも孤独をさりげなく着こなしているシャチョーがこの日だけ少し気弱になる感じも大好物で、「今日は一人でい たくない」のマヤ版というか、ちょっと対になる感じのお話が読んでみたいかなーとか思いました。例えば誕生日の1週間前(バレンタイン?)あたりから ちょっとツライことがあり(設定は何でも…例えばシャチョーにチョコ渡せなかったみたいな、他人だったら「何だそんなこと」な事柄でもマヤには物凄く ショッキングだったりすること)、そして自分の誕生日は何の予定もなく、寒くてしんどくて一人部屋でじっと膝を抱えて我慢しているマヤの気持ちをシャ チョーが…ニブチンなのに同じような孤独をわかっているからちゃんと察してマヤの孤独が溶けていく…。
もちろん、エロマスはそこで終わりませんので、そのあとはどどーんとやっていただいて(←何を?(笑))、翌朝は疲れ切ったマヤを起こしてベッド上で朝食、そのあとはもちろんマヤを頂いちゃうエロマス。
マヤはもう腰がたたんな、しばらく…。
あ、勿論ですがシャチョーのゴタゴタは整理されている状態です。
ですが、想いが通じ合っているかどうかは杏子様の御心次第で。
 
結局妄想垂れ流しでした…ワタシの変態度合いがわかってしまうんですね、リクって!
基本、切なさ120%からのハッピーな話が一番グッと来てしまったりします。
 
あ、あと本当に入れられたらでいいんですけれど…
「どんな時も君の後ろに僕はいる 倒れそうな夜には振り向けばいい」
っつー、このストーカー気質なキザッちー台詞をシャチョーに言わせてみたいんです。あのオサーンバンドの詩の一部なんですが、この台詞が言えるのはシャチョーかアンドレ(Byベルばら)しかいねーなと…(笑)。
まんまだとアレだと思うんで、加工とかして下さって全然いいんで。
あ、ホントに無理しない程度でいいんです、すみません(滝汗)。



*******

以上。笑



あ、オサーンバンドとは3人組のTHE ア○フィーの皆様でございます。
ガッツリ、シャチョーにはその台詞を吐いて頂きましたが、当のご本人
「いざ読むとマジこっぱずかしいっすね」
って。ウケルw

それから朝食シーンが入りませんでした。すみません汗
マヤちゃん宅だったので、絶対オシャレなものとかなさそうでw

Blogでも書いたのですが、WEBではもうR18は書かない宣言していたのですが、こうして熱いリクエストを頂いて書く機会を頂け、感謝の気持ちでいっぱいです。

以前から、エロシャチョーこそ世界に誇る速水真澄、という力強いお言葉を海帆さんからは頂いておりましたのでw、躊躇なくいかせて頂きましたv
ちなみにお気に入りの台詞は
「挿れるぞ、いいな」
だそうなので、駄目押しで入れときましたw





速水真澄という男を追求すると、そのサディスティックな側面を避けては通れない自分がいます。でも単純にどSであるということではなく、同時にどMでもあるその表裏一体感が不可欠というか。
肉体的なSMには全く興味はないんですが、この二人の精神的SM世界にはほんと惹かれますね。(私の謎の性癖告白その1)

今後もWEBでR18を書く事はもうないですが、もしご興味持って頂ける方いらっしゃいましたら、この数倍はイロエロやらかしてる同人誌をぜひ♪(宣伝)  おすすめは全作品R付きの『再録集The Collectors1 2014』と『溺れる花』(完売済みですが、近々再録予定です)『東京サディスティック』です。うほっ★ 



物凄く久しぶりの見切り発車ナマ連載。(完結していない時点で書いては出し、書いてはだし、するという形)かなり追いつめられましたが、無事に完結出来て何よりです。エロ突入前の全裸待機カウンターはマジ震えました。汗

拍手感想で励まして下さった方、本当にありがとうございました!
何よりの励みであり、支えでした!!

次は3ヶ月後のCityイベントで、またどエロを出したいなと性懲りも無く思ってます!(最後のすかしっぺ)←ヒドイw


感想頂けたら凄く嬉しいです。いつもありがとうございます!!









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