紫の行方 6
(忘れられる、忘れられない、忘れられ……)

薔薇の花びらの残りはあと4枚だった。答えはもう出てる。残り少なくなった花びらをつまむ指先が震える。

(薔薇に聞いてみるまでもなかったか…)

それでも最後の1枚まで無心に花びらを引き抜く。

(忘れられない……)

最後の1枚は蕾の部分でとても小さな花びらだった、そっとそこに口付けると手のひらに乗せ、夜空に差し出す。あっという間に夜風がさらって行くのを見届けた。

「こんな夜中に花占いとは君もずいぶん、ロマンチストだな。何を占っていたんだ」

突然背後から聞こえたその声に、マヤは飛び上がるほど驚き、思わず薔薇の枝を宙に放り出してしまう。夜陰に飲み込まれ、すぐに薔薇の枝は見えなくなった。

「ど、ど、どうして、ここにいるんですか、速水さん!!もうびっくりして、心臓止まるかと思ったじゃないですか、こんな夜中に!」

「薔薇に呼ばれてやってきた。夜中に空から薔薇が降ってくるほうがびっくりするよ。何を占っていたんだ」

マヤが質問に答えないので、真澄はもう一度問いただす。

(あなたを忘れられるかどうか、占っていました)

とは口が裂けても言えるはずがない。

「は、速水さんに関係ないでしょ!」

真っ赤になって必要以上に大きな声で叫ぶと、真澄に背をむけ再び夜空を睨んだ。それでも、コツコツと優しい靴音が自分に近づいてくるのを心のどこかで、待っていた。

「君が嫌でなけれな、そこまで行ってもいいか?」

「別に…。ここは私の家でもないですし、来たければ勝手に来ればいいんじゃないんですか?」

言ってしまったあとで、マヤは自分の天邪鬼にほとほと呆れる。それでも、コツコツと近づく足音を聞くと、ほっとするような優しい気持ちが、胸に広がっていくのが自分でもおかしかった。

「主役がとんずらってわけか」

「いえ、ちゃんと御挨拶もお礼も一通り済ませてから来ました。あそこ、タバコ臭かったし、気分が悪くなったんでちょっと逃げてきただけですよ」

慌てて真澄は、火をつけたばかりのタバコを揉み消そうとする。マヤは取り繕おうとしたあまりに、思ってもいない事を言ってしまった事に気がつき、慌てて付け足す。

「あ、あの、いいんです。速水さんのはいいんです。別に吸っててもいいんです。あの吸ってください」

自分でも滅茶苦茶な日本語だと思う。訳が分からないという表情の真澄に、マヤは更にぼそりと付け足した。

「あの、それにここは外だから…。タバコの煙も気にならないから…」

俯いてしまうマヤを見ながら、優しい笑みを浮かべると、

「それでは、紅天女さまの許可も下りた所で一服させて頂くとしますか」

そういって、マヤとは逆方向に煙を吐いた。


マヤは幸せだった。そんな風に思える自分にも驚いていた。思い切れたとはいえ、あれ程恋焦がれていた真澄と、今度二人きりであったら一体自分がどんな風になってしまうのか、想像も出来ないほどだったのに、こんな風にいつも通り軽口を叩きあい、自然に振舞える事が幸せだった。
二人は屋上の塀にもたれ、しばらく無言で夜景を眺めた。

「おめでとう。予想通りとはいえ、緊張していただろう。良かったな。俺もほっとした」

マヤには目線を合わせず、真澄は呟いた。

「ほっとしたけど、困ったんじゃないですか?」

「え?」

「だって、私が紅天女になったら大都で上演出来ないじゃないですか」

あくまでいたずらっぽい口調でマヤが言う。

「亜弓さんが紅天女だったら、今頃紅天女はあっさり大都のものになってて、速水さんもあっさり紫織さんと結婚出来てた?」

真澄が答えられず、黙ってマヤを見つめ返すと、

「ふふふ。速水さん、困ってる。大丈夫ですよ、私、お二人の邪魔なんかしませんから。なーんて、私なんか関係ないか、紅天女があってもなくても、速水さんは紫織さんと結婚するんですもんね」

(私がいようがいまいが、速水さんには関係ない)

そう言ってる風にも聞こえた。
そこまで言うと、マヤは履いていたパンプスを脱ぎ、両手に片方ずつ持つと、塀の上によじ登った。

「マヤ!」

驚いて真澄は叫ぶ。

「危ないから降りなさい!!」

「やだ、大丈夫ですよ、速水さん。私、酔っ払ってもないですし、ほら、こーんな事も出来ちゃう」

そういうと、マヤは片足を塀の外に突き出し、片足でバランスを取って見せた。

「マヤ!!頼む、馬鹿な真似はやめて、今すぐ降りろ!!」

「や〜、怖いのね。本気で怒ってるぅ?でも、ここ気持ちいいですよ」

全く降りる気配も見せず、マヤはそろそろと幅30cm程の塀の上を器用に歩いていった。薄紫のドレスがパタパタと風に翻る。

「マヤ!落ちたらどうするんだ!!」

いたずらに近づくと、マヤがバランスを崩して落ちてしまうのでは、と不安になりながらも、真澄はぴったりとマヤの隣を歩いていく。

「じゃぁ、落ちないように手を取ってください」

そういって、マヤは片手に両足のパンプスを持ち替えるともう片方の手を真澄の方に差し出した。一瞬ためらった後、真澄はマヤの手を取った。

「わがままな紅天女だな」

それでも少し安心したのか、軽口を叩く余裕を持って、いっそう強くマヤの手を握った。ゆっくりと歩き続けながらマヤは言った。

「あの…、さっきの、あのおじさんが言ってた、結婚祝いの話、考えてもいいですよ、私」

真澄の体が一瞬強張ったのが、繋いだ手から伝わってきた。

「馬鹿な事を言うな。酔っ払いの戯言だ。本気にするな。君が大都でだけは上演したくないのは、俺が1番わかっている」

「口説く前から諦めてるんですか?速水さんらしくないですね」

相変わらずのからかい口調でマヤが答える。口説くという言葉尻をとらえて、訳もなく真澄の指に緊張が走る。

「口説いたら、君は落ちるのか?」

「さぁ、どうでしょうね。私、まだ口説かれてないから…。あ、でも他の人からは沢山口説かれましたよ、今日」

真澄に動揺が走る。

「不思議ですよね。ちょっと前までは、私、芸能界から締め出されてて、誰にも相手にされなくて、ゴミみたいに扱われていたのに、紅天女を手にした途端、突然みんなが私を追っかけてくるなんて。私は私で、ぜんぜん変わってないのに…」

「で、どうするんだ。上演権の事もあるが、事務所の事だってあるだろう。今の君だったら、たしかにどこの一流どころも欲しがるだろうな」

マヤを他の芸能社に取られてしまうのでは、と真澄は気が気でなかった。

「そうかな、でも超一流の大都は、速水さんは、あんまり欲しがってないみたいですよ、私の事」

真澄は先へ歩こうとするマヤの腕を強く引っ張り、その場に引き止めこちらを向かせた。強く引っ張られ驚いたマヤは、じっと真澄を見つめ返す。

「俺が君を欲しがったら、一番困るのは君だろう?」

怒ったような真剣な真澄のまなざしをしばらく見つめたあと、マヤは、ふぅと大きくため息をつくと、真澄の手を離し、その場に腰掛けた。ぷらぷらさせてる裸足の足を見ながら、ゆっくり言葉を選びながら喋り始めた。

「私、今までずっと、紅天女を演るのが夢で、お芝居のことなんて何にも知らなかった頃から、馬鹿の一つ覚えみたいに、そこだけを見て走ってきた。絶対、誰にも渡したくない。絶対、紅天女になってやるって。他のことには執着心なんてまるでなくて、お芝居のためなら自分の母親さえ捨ててきたのに、紅天女だけはどうしても手に入れたかった」

『母親さえ捨て…』

真澄の心に鉛の杭が打たれる。

「君がいつ母親を捨てたっていうんだ。君の母親を君から奪い去ったのは、この世から葬ったのは、他でもないこのオ…」

言い終えないうちに、マヤの細い指が真澄の唇に封をした。
それ以上は言うな、と目で訴えゆっくりと指を戻すと、少しの沈黙のあと、マヤは続けた。


「私はお芝居への情熱と引き換えに、母を捨てました」


真澄の耳の奥が鳴る。
風が弄ぶ、マヤのドレスがはためく音も今はもう聞こえない。

「あの時私は、速水さんに、『俺を憎め』と言われ、そうしたほうが楽だから、そうしたほうが、罪の意識から逃れられるから、全部速水さんのせいにしてた。本当はもっとずっとずっと前に、私は母を失っていたのに…。
私ね、13歳で月影にいれてもらった時、家出して先生のところに飛び込んでいったの。当然、母はすぐ私を取り戻しに来て、そしたら、私、母に言ったんです。『女優になるから帰れない』って。
あの時の平凡で、なんの取り柄も無い私が、『女優になる』なんて言ったら、誰だって大笑いして私の気が触れたって、思うに決まってますよね。ふふふ。ほんとにあの頃は向こう見ずで怖いものなんてなんにもなくて、がむしゃらだったなぁ私」

マヤの目が一瞬、遠くを見つめる。

「だから、女優になるため、お芝居への情熱を貫くため、他には何にも持っていない私が唯一持っていたもの、たった一人の家族を、その時私は自分の意志で捨てたんです。だから、ホントにゼロからのスタート。女優になるためには、私、あの時は他に何も持ってちゃいけなかったんです。守るものがあっちゃいけなかったんです」

まるで自分自身に言い含めるかのように喋るマヤを、真澄はじっと見詰めていた。

(いつのまにこの子はこんなに大人びた考え方をするようになったんだ)

「でも、こんな風に考えられるようになったのは、つい最近なんですけどね。私もずいぶん子供だったし……。
あ、今でも子供ですけどね」

そう言って、照れくさそうに、舌をちょっと出すと腰掛けていた塀からストンと降りた。

「さぁ、口説いてくれるんですか、くれないんですか?」

真澄のすぐ側に立つと、マヤはしっかりと下から真澄を見上げて言った。

「ありがとう…」

「?」

「だからと言って許されるとは思ってない。また許して欲しいとも思っていない。一生をかけて、償っていくと誓ったつもりだった。だが…、少し楽になった…。君に憎まれていると、恨まれていると思って生きていくのは辛かった…」

それを聞き届けると、マヤはトンと真澄の胸にそっと頭を預けた。

「私も、誰かを憎んで生きて行くより、誰かを愛して生きていきたいです…」

戸惑いがちに真澄の腕がマヤの背中に回される。

「約束する。君を守る。一生、命に代えても君を守ってみせる。最高の女優にしてやる…!この俺の手で!!だから…、大都の…、俺のものに、なって欲しい…!!」

女優として言われている言葉だとわかっていた。それでも、『欲しい』とか『俺のもの』とかいう言葉尻をとらえて、マヤは心の中で反芻し、後で傷つくとはわかっていても、まるで残酷なゲームに身を任せるように真澄の腕の中で崩れていった。

「私を、紅天女を、速水さんのものにしてください。…ずっと望んでいた事ですから」

マヤの中で、小さな闘志に火がついた。

(女優として誰よりも、速水さんに必要とされる女優になろう。誰よりも輝いて、誰よりも愛されたい。舞台さえあれば私は一人じゃない。そこには速水さんがいるから…!舞台にさえ登れば、この愛は一生貫ける!!)

そこまで強く思い切ると、振り切るように真澄の腕から自ら離れ、言い放った。

「契約成立ですね。お祝いしましょうか?」

真澄は突然離れていってしまったぬくもりに、呆然としつつも、

「ああ」

と力なく答える。

(チビちゃん、君は届いたと思った瞬間、いつも俺の腕をすり抜けていくのだな…)

「それじゃぁ、これの栓を抜いてください。持ってきたはいいんだけど、私、開け方よくわかんなくって」

そういって、シャンパンボトルを真澄に差し出した。

「チビちゃん、これ…」

訝しそうな表情でボトルを受け取ると、真澄はマヤを見やった。

「えへ、盗んできちゃった。だってパーティーでは緊張しててぜんぜん飲めなかったんだもん。喉も渇いていたし」

「あっはっはっは」

あっけらかんとして言うマヤに、真澄はようやくいつもの笑い声を取り戻す。

「ようし、いくぞー」

「あ、やだ、速水さん、こっち向けないでくださいよ。ドレス濡れちゃうじゃないですか。巨人軍の優勝パーティーじゃないんですよ」

そういって、マヤは走って逃げた。そんなマヤを追いかけながら、真澄は勢いよく栓を抜く、夜空に高くコルクは飛んでいった。湧き出る泉のように、溢れ出るシャンパンを真澄はボトルからそのまま飲み込んだ。無言でその様子を見詰めていたマヤは、真澄からボトルを奪うと真澄の目をじっと見つめたまま、自分もボトルに唇を押し当て、一気に飲み込んだ。手の甲で口の周りを拭いながら、黙ったままボトルをもう一度真澄に返すと、真澄も無言でそれを受け取り、お互いの目線を1mmも逸らさずに、再びその液体を体内へ押し込んだ。
マヤは一気に飲み込んだシャンパンのせいで、頭がくらくらする気がした。そして、体中がじんじんと熱かった。直接触れたわけではないのに、まるで真澄の唇がそこへ触れたかのように、自分の唇はただれる様な熱を持っている気がした。


心が、少し、イタイ…。



「契約成立だ」

確かめるように、真澄が呟いた。

「やだ、速水さん、契約が成立したっていうのに、ぜんぜん嬉しそうな顔してませんよ。ほら、笑って」

貼り合わせたような不器用な笑顔を浮かべて、マヤが言う。言われた通りの笑顔を返すかわりに、真澄が尋ねる。

「君は、それで幸せか」

(幸せ…?)

マヤの瞳の中で何かが動く。

「幸せ…、幸せってなんですか?速水さん…。例えば、好きな人と結婚して、みんなから祝福されて、円満な家庭を築いてっていうのが、そういうのが、人として幸せだっていうんだったら、私はわからない…」

真澄の体内でアルコールが飛ぶ勢いで、手足が冷えていくのがわかる。

「チビちゃん…」

「でも、でも、あたし、女優としては、きっと世界で1番幸せだと思います。それから、これからもがんばれば、きっと女優としては、もっともっと幸せになれると思います」

紫の薔薇は永遠である、と誓ったあの手紙をマヤは思い出す。

「だって、紫の薔薇の人もそう言っていたから…。私が女優でいる限り、舞台に立ち続ける限り、ずっと見ててくれるって…。だから、私は女優でいるしかないんです。たとえ、もう紫の薔薇を貰える事はなくっても…」

最後はそう言って、力なく首を垂れた。
真澄は指が白くなるほど、拳を強く握り締めていた。

守ってやる、と言っている側から自分はこんなに彼女を苦しめる。これ以上、苦しめないために、いたずらに恋心を弄ぶ事がないように、自分は自ら紫の薔薇を葬る決心をしたのだ。
それでも、この先、所属事務所の社長という大義名分で彼女を見守り、側に居続けるという事に、男のプライドの部分は満たされたとしても、男としての本心がどこまで持ち堪えられるか、真澄はまったく自信がなかった。
今この瞬間にも、それが決して許される事ではないとわかっていても、マヤをこの胸に掻き抱き、そのままどこか遠くまで連れ去ってしまいたい衝動にかられる。

(こんなに側にいて、俺は本当に諦める事が出来ると思ってるのか?)

昨日までの堅い決心を嘲笑うかのように、もう一人の自分が問いかける。そんな真澄をじっと見つめながら、マヤはゆっくりと口を開いた。

「速水さん、覚えてますか、昨日、川原で話した事。私の夢が今日、叶うかどうか」


『私の夢は二つでワンセット、紅天女になって紫の薔薇に人に直接お礼をいう事』


真澄の胸に昨日のマヤの言葉が蘇る。

「ああ、覚えてるよ」

真澄は苦しそうに答える。

「夢は…半分は…半分は叶いました。もう半分は…まだ…叶っていません。でも叶うかどうか試してみませんか?」

そこまで言うと、急にマヤは身を翻し、屋上の端へむかって走り出した。突然のマヤの行動に慌て、真澄も後を追うが、くるりとマヤが振り向いた瞬間、凍りついたように体が硬直する。マヤは先ほどの塀にまたよじ登り、ゆらゆらと風に揺れている。しかし、先ほどの穏やかな無邪気な雰囲気とはまるで違った緊迫感が漂う。
塀の幅は30cm足らず、ちょっとバランスを崩せば真っ逆さまに地上に堕ちていきそうな不安定さだった。

「チビちゃん!馬鹿な真似はよせ、頼むからそこから降りてきてくれ。危ないだろ!!」

「いいえ、速水さん、私は自分の夢が叶うかどうか自分で試したいだけです。死んだりなんかしないから、安心して」

そうはいっても、強風に煽られ、一秒たりともマヤの体はまっすぐに立ってはいられない状態だった。下手に自分が近づけば、そのまま身を投げ出しそうな興奮状態のマヤに、真澄は手も足も出なかった。

長い沈黙。

風に煽られ、絹のドレスがバタバタとはためく音だけが不気味に響く。

「そう、それでいいの。ね、速水さん、私は試してるだけなんだから、そんな怖い顔しないで。私、絶対、飛び降りたりなんてしないから」

『死んだりなんかしない、飛び降りたりなんかしない』

マヤがそう叫ぶたびに、それは逆にその可能性を示唆しているようで、真澄に心臓を抉り取るような痛みを与えた。

その瞬間、突然マヤはこれ以上ないほどの笑みを満面にたたえると、頭にさしていた一輪の紫の薔薇を抜き取った。夜会巻にしていた髪は崩れ、ゆるいウエーブのかかった髪がマヤの頬に、肩に、落ちてきた。暗闇の中、顔の周りではためく黒い髪を風になびかせたまま、この世の人間のものとは思えないほどの美しい笑みを浮かべるマヤに、真澄は神々しいまでの荘厳さを感じ、衝撃のあまり動けなくなる。
まるで脳の内部に至るまでのすべての細胞の動きが止まってしまったかのように…。
マヤは一輪の紫の薔薇を、胸の前でしっかりと両手で握り締めながら、ゆっくりと瞼を閉じた。


「今まで、長い間私を支えてきて下さって、ありがとうございました。
100万回お礼を言っても、私のあなたへの感謝の気持ちにはまだまだ足りません。
あなたが居なければ決して私は紅天女まで辿りつく事はできなかったでしょう。
紅天女はおろか、女優になることも、芝居を続けていくことの喜びも、知りえなかったでしょう。
なんの取り柄もなく、なんの財産も持たなかった私ですが、今は紅天女とあなたへの感謝の気持ちという、私の全生涯をかけて守り続けるべき財産を得ることが出来ました。
……私を……
紅天女にしてくれて……
ありがとう……」

そこまで言うと、マヤはゆっくりと閉じていた瞼を開けた。自分でも声が震えているのはわかった。それでも聞き取れるほどの大きさではっきり言ったつもりだ。突っ立ったまま1mmも動けないままでいる真澄に、マヤはゆっくりと一輪の紫の薔薇を手向けると、

「速水さん、私の夢は叶いましたか?
もしも、私の夢が叶ったのなら、この薔薇を私にもう1度渡してくれませんか?」

消え入りそうな震える声で尋ねた。







11.26.2002


…to be continued








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