15 シンドローム
"恋愛症候群〜その発病ときっかけ〜" 1
written byきょん
※※これは「もしも、真澄とマヤが別の出会い方をしていたら・・・」という設定の元に創作 しました。どうぞそのつもりでお読み下さい。


4月某日。今日は大都芸能社の入社式。
まだ着慣れないスーツ姿の新入社員の中に、姫川亜弓と北島マヤの姿があった。
二人は短大時代の同級生で、亜弓の強引な誘いで特段就職先も考えていなかったマヤは特別勉強もせずにお付き合いで入社試験を受けたが、何故か奇跡的に合格し入社するハメとなったのだ。
亜弓は裕福な家のお嬢さんであるにもかかわらず結構ミーハーで、就職先に大都芸能を選んだ理由も大都芸能所属の人気アイドルグループ「SNAP」の木村拓真や現在大河ドラマに出演中の「NAGOYA」の杉岡昌宏に会えるかもしれないという単純な理由だった。






短大時代、亜弓は抜群の美貌と成績で大学の華と呼ばれ、マヤはこれといった目立たない学生で、周りの者も何故あの二人が友人なのか訝しんだものだった。
入社試験の日、ペーパーテストが終わり、人事部の重役たちによる面接が始まった。
亜弓は持ち前の明晰さでテキパキと質問に答え、面接官たちをうならしていた。
他の受験生たちも、おきまりの三つボタンのリクルートスーツとマニュアル通りの受け答えで面接をこなしていいた。
そんな中でマヤだけが普段着で現れ、おまけに面接の間中俯いたままで試験官の顔を見られずに、質問にも「えと、あの、その・・・」を繰り返す始末だった。






人事部での選考が始まり、亜弓は文句なく合格し、マヤは文句なく不合格になるはずだった。そこへひょっこりと社長の速水真澄が現れた。

「どうだね、今年の入社希望者は?いい人材はいそうかい?」

人事部長がかしこまって答えた。

「そうですね。即戦力として期待できそうなのもいれば、本気で入社したいのか、それとも冗談で受けに来たのかと疑いたくなるコもいますよ。」

真澄が興味深そうに聞いた。

「ウチを冗談で受けようなんて、それはまたどういうコだ?」

「ペーパー試験も悲惨な成績ですが、面接に普段着でやってきて、質問すればあーとかうーとか。今や女性誌でも入社したい会社bPに選ばれていて、就職競争率50倍を超える大都芸能に本当に入る気があるんですかね。冗談としか思えませんよ。」

「はは、緊張して面接受けてる他の学生に比べたら、ある意味それはものすごく度胸のある人物かもしれないぞ。是非とも会ってみたいものだな。」

そんな真澄の一言で、マヤの入社が決まった。






入社式では、トップの成績で入社した亜弓が新入社員を代表して誓いの言葉を述べている。

「本日より入社しました限りは、大都芸能の社員として恥ずかしくないよう誇りを持ち、会社の発展に貢献し・・・」

社長は壇上にいるらしいが、チビな上に100人を超える新入社員の一番後ろに座っているマヤには顔など見えるハズもない。

「亜弓ったら、何が会社の発展よ。朝から芸能人を見つけてはきゃーきゃー言ってたくせに。でも、ロクに面接の勉強もせずに亜弓に引っ張られるまま試験を受けたアタシがよく入社できたものだわ。アタシって意外と凄いのかも。」

脳天気なマヤの思考をよそに、亜弓の誓いの言葉が終わると、人事部長から新入社員の所属が発表された。

「姫川亜弓。社長室付け秘書課。」「北島マヤ。同じく秘書課。」

会社の中でも女性社員の憧れの部署である社長室付けの秘書課。そこにトップ入社の姫川亜弓はともかく、北島マヤまで配属になったから一瞬場内がざわめいた。

「なんで?なんで亜弓とアタシが秘書課だとみんな驚くの?」

素直に聞いてくるマヤに亜弓は溜息をひとつ吐きながら答えた。

「あなたねぇ、前にも言ったでしょ。大都芸能の速水社長といえばまだ30になったばかりなのにすごい敏腕社長なのよ。オマケに長身でハンサム、実業界のプリンスとまで言われているのに女性社員が放っておくわけないじゃない。さすがの私もさっきの誓いの言葉の時はドキドキしたものよ。その秘書課の中でも社長の一番そばに仕えるのが社長室付けの秘書課よ。私たちはみんなに羨ましがられているのよ。」

「へー、そうなんだ。でも、亜弓と一緒の部署でよかった。」

あくまでもマヤは暢気である。なおも亜弓が付け加える。

「あーあ、あれで婚約さえしてなかったら私もアタックしたのになぁ。」

「へぇ、社長、婚約してるんだ。」

「あなたって芸能社に入社する割には週刊誌すら読まないのね。鷹通グループの総帥の孫娘と、ついこの間婚約したって出てたでしょ!自分が入社する会社の社長のことぐらい勉強しなさいよ!」

「あー、そんなこと知らない。だって、ここだって亜弓が無理矢理受けさせたようなものじゃん。アタシは別に入りたくて入ったワケじゃないもん。」

あきれている亜弓を尻目に、マヤは今日初めて着たスーツがうまく納まらず、やたらとスカートの裾を気にしていた。






入社式が終わり、亜弓とマヤはビルの最上階にある社長室へと向かった。
社長室横の秘書室のドアをノックすると長髪のサングラスの女性が現れた。

「あら、あなたたち新入社員の姫川さんと北島さんね。私は秘書室長の水城よ、よろしく。」

秘書室に通された二人はまず部屋の広さに驚いた。
秘書というくらいだから、2〜3人が仕事をしているくらいに思っていたのに、広いフロアには少なくとも10人以上の社員ががパソコンに向かったり電話をかけたり来客の接待に追われている。
とてもじゃないが二人に気付くヒマもないといった感じである。
秘書といえば、社長にお茶を煎れたり手帳をみながらスケジュールを報告する・・・程度の旧態依然としたスタイルしか思いつかない二人には正にカルチャーショックであった。
ポカンと口を開けた二人に水城が笑いながら説明した。

「驚いた?ここはいつもこうなの。ここで会社のデータを集計したり社長や重役のスケジュールを調整したり来客の応対をしたりしているのよ。さ、あなたたちの席はここよ。」

席についてキョロキョロとあたりを見回していると一人の秘書が水城に耳打ちをした。

「社長がお戻りになったようよ。紹介するからいらっしゃい。」

水城が社長室のドアをノックする。

「社長、新しく秘書課に配属された二人を連れて参りました。」  



5.8.2003



…to be continued








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