| □□第6話□□ written by キティ |
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月曜日、水城は出社すると真澄から、マヤが今週本社に来る時少し話をしたいのでお互いのスケジュールを調整して欲しいと指示された。 マヤはその週の金曜日、予定通りドラマの打ち合わせをした後、珍しく帽子を被って社長室にやって来た。 水城を見つけると、帽子を脱ぎ、笑ってはいるが唇をきゅっと閉じ、少し緊張している面持ちだった。 「こんにちは水城さん、お久しぶりです。今日はお忙しいのに、無理を言ってすみませんでした。」 (えっ?) 水城はマヤから真澄に会いたいと言ったのだと初めて知った。 いったいいつ連絡をとったのだろう?先週末の月影千草の三回忌にマヤは行っていない。だいたい紅天女に決まり、桜小路との交際が始まってからはマヤも真澄も仕事以外では互いの名前さえも口にしなかった。マヤが真澄の自宅や大都宛に電話や手紙で連絡をとったとは考えられない。マネージャーを通してとも考えられるが、それも無い事だと思う。 「あぁ…そうね。でも大丈夫よ。紅天女の頼みとなれば真澄様だって無理を聞かなくてはいけないでしょうから。それより、マヤちゃん足の方はもう良いの?」 「あっ、先週はご心配かけてすみませんでした。本当、おっちょこちょいでイヤになります。これが舞台中だったと思うと、ぞっとしますよね。でもほらこの通り、今はすっかり大丈夫です。」 マヤは捻挫したらしい右の足首をワザとらしいくらい、ブンブンっと振って見せた。 「そう、怪我がたいしたことがなくて良かったわ。さっ真澄様が待ってらっしゃるわ。一応1時間ほど時間をとってあるけど、もしそれ以上かかりそうな時は声をかけてくれるかしら?その後の会議の調整をするわ。真澄様がいなくても始められる案件があるから、少しは融通が利くの。」 「水城さん!本当にいつも有難うございます。でも、長くは…かからないかな?だから大丈夫だと思いますよ。では行きますね」 マヤが社長室に入ったら電話の取次ぎ、他の人間の入室は一切して欲しくないと真澄に言われていたので、水城は新人の秘書にマヤの入室と同時にコーヒーとミルクティーを運ぶ様に指示してあった。新人であれば2人の過去をあまり知らない。2人にとってもその方が気が楽だろう、と水城が気を効かせた事だった。そして2人の話し合いが長くなると今日これからの仕事に支障が出るので水城はマヤに1時間以上かかる場合声をかけるようにと言っておいたのだ。 マヤは長くはかからないと言っていたが、やはりそうはならず、でもピッタリ1時間で社長室から出てきた。 出てきたマヤは帽子を深く被り水城達に一礼すると、小さな声で 「水城さん有難うございました。」 と足早にエレベーターに乗りこんでしまった。 水城はマヤの顔を見る事は出来なかったが、気が付いた。 マヤは社長室で泣いていたに違い無い。 マヤは泣く事を予想して、帽子を被って来たのではないか? 久しぶりのそういった光景にただならぬものを感じたが、もう真澄が結婚してから数年経って自分がどう動いても何も変らないし、変えてはいけないのだと自分に言い聞かせて水城は仕事に戻った。 そして、また数年がたったある日 速水真澄は… 紫織と離婚、 大都を辞め、 速水の姓も捨て、 皆の前から姿を消してしまった。 水城は思う、数年前にマヤが真澄の所へ来たあの日。 あの日に何かあったのだと。 真澄の後任はそれまで副社長だった人物で、速水家とは関係の無い実力のある人間だった。そしてもっと心配だった真澄と紫織との離婚は、会社の損得にも関わることなので大都の社員はこれから大都はどうなるのかと噂が絶えなかったが、真澄は数年かけてビジネスとしてお互いがやっていけるように調整して去っていった。 そしてマヤは相変わらず紅天女を中心として順調に仕事をしていた。 ただ先日、「今している仕事が終わったらその後はしばらく新しい仕事は入れないで欲しい。紅天女の舞台も今回の東京公演が終わったらしばらくの間休みたい」と言ってきた。 この事を知っている者は数人だ。水城もこの数人の内の1人。 水城には分かっていた。「あの日」以降、真澄が鷹宮との事を「仕事だけの関係」に変え様としていたことを。そして、それが上手くいった時、紫織と離婚するつもりだ、と。 真澄が姿を消す数週間前、水城は社長室に呼ばれていた。 真澄は書類から目を離さずに水城に質問した。 「水城君、最近のマヤの仕事はどうなっている?」 「単発のテレビドラマが2本と、紅天女の東京公演が来月から始まります。」 「そうか…ありがとう。」 「真澄様?」 「うん?なんだ?」 水城は確信を持って質問をした。 「数年振りに、また何か企んでいらっしゃいます?」 「!!」 真澄は吸っていた煙草を口元でピクっと動かしたが、 その後穏やかに笑いながら、煙草を消しながら答えた。 「…ははははっ。本当に君には隠し事は出来ないな。いや、まいった。 これまで本当に色々有難う。君には感謝してもしきれないよ。」 「また本当の事は話して下さらないのですね。」 「本当の事?言わなくても、君にはすぐバレてしまうからね。せめて 少しでも遅く真実を知って驚く君を想像して楽しませてもらうよ。」 「まっ…そんな上司っています?」 「いるよ、ほら、ここに。」 真澄のこんな笑顔を見るのは久しぶりだった。 二人とも笑ってしまった。 04.12.2006 ![]() |
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