恋せよ乙女!!〜愛のキス☆キス大作戦〜 2
written by しずか
━ 計画 ━




"はぁ、本当に大丈夫かなぁ。"
"やっぱり、あたしにはそんな度胸が・・・。"
"でも、大人の女性には憧れるし・・・とはいっても・・・。"

心配な思いは次から次へと溢れ出てくる。

さすがの水城も数秒おきに繰り返されるマヤのため息に不安を隠せない。
マヤの顔を覗き込むと、頭を抱きかかえるようにそっと囁く。

「マヤちゃん、別に無理にしなくてもいいのよ。」

「これは、バラエティ番組の企画なんだから、いくらでも変更できるし・・・。」

二人は、一週間後に控えた番組収録の打ち合わせでテレビ局関係者を訪ねていた。

とあるバラエティ番組の企画。
それも、放送一周年記念ということで、時の大女優北島マヤ愛用のぬいぐるみをチャリティオークションするという企画だ。
今までの活動拠点が舞台だったマヤに初めて舞い込んだバラエティ番組。
テレビに出演するのは高校生の時以来だ。
芸能界から追放され、それでもめげずに努力を重ね、ついには幻の名作である紅天女を演じる大女優になった彼女のサクセスストーリーに日本全国の誰もが共感した。
そんな実力派女優となったマヤへの世間の興味はどれ程のものか計り知れない。
今回の企画は、素のマヤをさらけ出すこともあって、明らかに高視聴率を狙った企画でもあった。

しかし、この企画が大都に舞い込んできた時、真澄はあまりいい顔をしなかった。
それもそのはず。長年、紫のバラの人としてマヤを見守ってきた真澄にとって最愛の女性の愛用しているものがどこの馬の骨か分からない輩の手に渡るのだから面白い訳がない。

"こんなものが、他の男の手に渡ったら・・・。"

考えただけでもぞっとする。
惜しみなく金をつぎ込んで落札するくらいのファンにそんな愛用のぬいぐるみが渡ってしまったら・・・。
おそらく使い道はただ一つ。

――― 毎晩マヤだと思って、抱いて寝るに違いない。(しかも、よからぬことを想像して・・・) ―――

男の考えることなんてそんなものだ。
いくら世間が冷徹な仕事の鬼だといっても、真澄だって結局はそこらの男性と何ら変わらない。
一人の女性を果てしなく追いかけるファンの心境なんて痛いほどよく分かる。
だからこそ、誰にも渡したくない!
マヤの所有物も、そしてマヤ自身も!!!
できることなら、社長権限をフルに使ってこの企画を闇に葬り去ってしまいたい。
しかし・・・。
自分自身のくだらない嫉妬心で、彼女の活躍を妨げる訳にもいかず、結局は彼女の愛用のぬいぐるみを取りやめ、そこらの百貨店に売っている何の思い入れもない物を代用することで話はまとまり、事なきを得たはずだった。

ところが・・・。






「北島君。今回の企画は、君も知っての通り一周年記念の特番だ。だから高視聴率を狙えるものにしようと思ってね。」

打ち合わせで企画部長が淡々と話し掛ける。

「君は、まだ若いとはいえ、あの幻の名作、紅天女の上演権を引き継ぐ立派な大女優だ。だからこそ、そんな君の素の姿を視聴者は心待ちにしている。これは世間の要望でね。それで特別ゲストに君が選ばれたんだ。分かるかな?」

「はぁ、そうですか。お褒めのお言葉ありがとうございます。」

マヤも、淡々と答える。
しかし、次の瞬間企画部長の顔がくもった。

「だがなぁ、企画の内容がなぁ。イマイチなんだよ・・・。」

「はぁ?」

「オークションに出す景品が、何の思い入れもない物だったら、君はどう思うかね。」

"どう思うって・・・?"

「確かに、君の素晴らしい演技でそれが愛用のものだと誤魔化せたとしても、大事なファンを騙したことになるんだぞ。それなのに、貴社のトップは、君の愛用しているものは一切誰にも渡せないというんだ。いっくら、君が看板女優だからってそれはおかしいだろ。」

「・・・・・・・・・。」

一部始終を聞いていた水城は、顔には出さなかったが思わず笑ってしまった。
確かに、あの方らしい。
日頃のマヤちゃんへのあの態度。
マヤのことを想うばかりにしてしまった数々の失態。
いつまでも、想いを伝えないくせに独占欲と嫉妬心は人一倍だ。
そんな大事なマヤちゃんの愛用グッズなんて、死んでも他の男には渡せないわよねぇ・・・。

水城の苦笑とは裏腹に、マヤには何のことかさっぱり分からず、相変わらず上の空だ。
おそらく、これから切り出す提案のことが気になって、人の話しなど聞いていないのだろう。

しかし、確かに企画部長の言う通り、これでは企画としては面白くも何ともない。

マヤは、意を決して企画部長に水城に言われた提案を切り出すことにした。

「あ、あのぉ、それで、その企画で、どうしても変更して欲しいところがあって・・・。あたしの話、聞いて頂けますか?」

「そうか、そうこなくっちゃ。この企画を大いに盛り上げるためにも是非君の意見を聞いてみたい。」

「はい、実は。オークションに使われる愛用グッズの件なんですが・・・。」

「おたくの社長に黙って、本物にしたいというのか???」

「はぁ、あ、あの、いいぇ・・・。そ〜じゃなくて・・・。」

マヤは、もじもじしてなかなか切り出せない。
うすうす察した企画部長は、冗談半分からかい心も加わって

「もしかして、自分をリボンで縛って"あたしを・・・♪"なんて言うんじゃないだろうなぁ。」

面白そうな顔をして話し掛けてきた。

「そ、そこまで大胆なこと、あたししません。」

マヤは真っ赤になりながら手と首をブンブンと大きく振って否定する。

「わっはっはっ。そんなことぐらい分かっている。で、結局はどうしたいんだ?」

「そ、それは・・・。」

しばらくの沈黙の後、マヤが淡々と話し始めた。

「笑わないで聞いてください。あの〜、あたし、今までまだ誰ともキスシーンとか演じたことなくて・・・。でも、友達に"練習相手になって"とは言えないし、だからと言って、どこの誰だか分からない人といきなりするのもどうかと思って・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「そ、それで、今回のオークションでサランラップを挟んでキスすれば、実際に触れている訳じゃないし、それに感触もあるし。あたしのファンだって言ってくれている人にも、喜ばれるかなって思って・・・・。」

最後は消え入りそうな声になっていた。
マヤから出た言葉とは思えないあまりの大胆な発言。
企画部長も、意外な発言に驚きを隠せなかった。

"や、やだ、あたしって。キスの練習相手をオークションで選ぶだなんて・・・。"

あまりにも恥かしい自分自身の発言に、マヤは思わず両手で顔を隠してしまった。

"もう、そんなに恥かしいんだったら、しなきゃいいのに・・・。"
"でも、そうまでして自分を追い詰めなきゃ、速水さんに見合う大人の女性になんかなれっこないし・・・。"

なんだか訳の分からない複雑な気持ちを抱え、マヤは事の成り行きを見守っていた。

一方、マヤに入れ知恵した水城ではあったが、さすがにここまで企画部長に驚かれるとちょっと気がひけた。 真っ赤になり恥かしそうに俯くマヤ見ればなおさらだ。 しかし、それでも心を鬼にして企画部長にお願いした。

「私も、マヤちゃんの意見に賛成ですわ。反対している者には私から説得しておきます。この企画、是非お願い致します。」

企画部長はしばらく黙り込んだ後、マヤの肩に力強く手を置き、半ば楽しそうな表情で話し掛けた。

「そうか、そんなに君が望むならば、そうしよう。私としては、何の思い入れもない物と、たとえ練習とはいえ君からの熱いキスだったら間違いなく後者を選ぶだろうし。」

最初は、突拍子もないマヤの発言に驚いた企画部長ではあったが、なかなか高視聴率を狙えそうな提案に彼もかなりご満悦な様子だ。

「北島君、なかなかいい意見をありがとう。さっそく採用させてもらうことにするよ。この件に関しては私から他のスタッフに伝えておくから君は大船に乗ったつもりで待っていたまえ。」

そして企画はあっさり変更されてしまった。






「はぁ、大丈夫かなぁ・・・。」

帰りの車中もずっとマヤはため息をついていた。

「そんなに心配だったら変更する? 今からでも遅くはないわ。」

水城が優しく話し掛ける。

「い、いえ。私も、この世界で生きていくプロの女優です。今更、引き下がれません。で、でも・・・。」

「でも?」

「勝手に企画変更しちゃって、ホントに大丈夫なんでしょうか?」

「それって真澄様のこと?」

「あ、はい。なんか今回の企画にあんまり乗り気じゃないって、さっき企画部長さんが・・・。」

「そのことなら、私に任せといて! それよりマヤちゃんは本番のことだけ考えてればいいんだから。」

水城は面白そうに笑って答えた。
今後の展開が楽しみだと言わんばかりの顔で・・・。

しかし、この計画をさらに変更しようと企む一人の青年がいようとは、この時の二人はまだ知る由もなかった・・・。
長年マヤを見つめてきたあの青年が・・・。






そしてその夜、マヤの洋画鑑賞とキスの特訓が始まった。
キスシーンを手っ取り早く掴むなら、やはりハリウッド映画を参考にすべきだと思った。
いわゆる、キスの練習の練習ってところだろうか?
思わず自分の置かれている状況に笑いが込み上げてきた。
普通世間一般の女の子ならば、上手い下手は別にして既に学生の時済ませているはずなのに
マヤは、芝居に熱中するあまり、男女のことは置き去りに過ごしてきてしまった。

"あたしって、なんでこんなに疎いんだろう・・・。"

だんだん自信がなくなってきた。
しかし、収録日は確実に迫ってきている。
今のマヤは真剣そのものであった。

いつも夜を共に過ごしている抱き枕と悪戦苦闘すること6時間。

「えっと、こうして、相手の首に手を回して、と。それで、そ〜っと目を閉じて・・・。」

しかし、映画の二人のように上手くいかない。
だんだん悲しくなってきた。

"こんなんだから、きっと子供扱いされるんだわ。"

もう一度映画のキスシーンを食い入るように見つめた。
少なくとも画面の中の二人は、激しく情熱的である。
だんだん弱気になってきた。

"はぁ、それにしても、こんな映画みたいな情熱的なキス、あたしもしてみたい・・・。"

っとそのとき、ふっと浮かんできた愛しいあの人の顔。
マヤは慌てて想いをかき消しブンブンと首を振る。

「あ、わわわっ。あたしって、何考えてるのよ。」

思わずバシバシと自分の顔を叩く。

"そんな、速水さんがこんな子供相手に・・・。冗談でも、する訳・・・ないっか〜・・・。"

お子様扱いされる日頃の会話を思い出し、ますます悲しくなるマヤ自身・・・。

"あたしが、もっと美人だったら・・・。"
"あたしが、もっと背が高かったら・・・。"
"あたしが、もっとスタイルがよかったら・・・。
"・・・・・・・・・"

でも、いくら考えてもそうなれる訳がない。
自分が持って生まれた容姿なんて変えようがない。

"でも、せめて、キスが上手くできる大人の女性に生まれ変わったら、あたしの相手になってくれるのかなぁ?"
"そうしたら、きっと今までとは違う自分に生まれ変われるかも!"

「よし、何が何でもがんばるぞ!」
なんだかよく分からないが無理やり自分を納得させて、練習するのであった。

そして夜が更けていく。
収録は明日に控えていた。



6.24.2003







…to be continude









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