| ベルリン 天使のいる街 2
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「んまぁ、お嬢様、なんてお美しいのでしょう。まるでお姫様のようですわ。これでは舞踏会中の殿方の注目は紫織お嬢様に注がれて、真澄さまも気が気でないでしょう」
「まぁ、ばあやったら」 出来上がったシャンパンゴールドのオートクチュールのドレスを試着し、満足そうに裾を翻し、鏡の中の自分自身に見とれながら紫織は赤らむ。 (真澄さまは、真澄さまは、なんとおっしゃられるかしら…) 少女のように浮かれながらも、真澄に対する拭いがたい不安が紫織にあるのも事実であった。 紅天女の試演後、予定通りに二人は結婚したが、真澄は予定されていた一ヶ月に及ぶ新婚旅行をキャンセルした。理由は、『紅天女、本公演への向けての急を要する準備』という事だったが、それだけではないのも紫織は感じ取っていた。駄々をこね 「嫌ですわ、嫌ですわ、真澄さま!紫織はこの真澄さまとのご旅行を心より楽しみにしておりましたのよ」 そう縋ったが、真澄は冷たく突き放した。 「新婚旅行やら、甘い新婚生活、そういったものが欲しいのであれば、何度も申し上げましたように、他の相手をお探し下さい。二人の名前が紙に並んだ、形だけの戸籍上の夫婦の関係以上のものを私に求めないで頂きたい。それでも結婚したい、と言い切ったのはあなたですよ、紫織さん」 もはや、取り繕う事さえ放棄した、なんの感情も持たない表情で真澄は言い放った。それは、誰もが認める、ビジネスのためなら手段を選ばないという、大都芸能の社長の冷徹な表情と酷似していた。いや、むしろ、そのものだったのかもしれない。 真澄にとって、この結婚はビジネスでしかない。 紫織は震え上がるほどに怯え、全身が冷たくなるような思いがした。 しかし、それでも目の前にぶら下がっている『結婚』と言う名の勝利を紫織は諦める事が出来なかった。誰に対する勝利なのか。一体なんの勝利なのか。もはや冷静な判断を下せる状況に紫織の精神状態はなかった。 (あの女がどうしたって手に入れる事が出来ないもの、私はそれを手に入れられる) ヒクヒクと不気味な笑いを浮かべ、紫織は婚姻届に判を押した。 (今は真澄さまも、一時の気の迷いに惑わされているだけ。真澄さまにとって本当に必要なものは、この鷹宮紫織が差し上げます。いつか、いつか、必ずや、あなたさまの本当の愛を手に入れて見せます) ただそれだけを信じ、それだけに全人生を賭けるかのように、紫織は真澄との結婚に強引に踏み込んだのだった。 真澄に一方的に新婚旅行をキャンセルされた後も、紫織は諦めていなかった。古くから、鷹宮と付き合いのある、ドイツの伯爵からの結婚祝いの手紙に、ぜひご夫婦揃ってベルリンで大晦日に行われる、ドイツ社交界恒例のジルベスターパーティーに来ないか、との誘いの文章があるのを認めると、ただちに公爵と連絡を取り、あっという間に事を決めてしまった。 「真澄さま、これは鷹宮にとっても大事な関係です。あなたの大好きなビジネスと思ってくださって結構ですわ。いずれこの海外の一流の人々との関係があなたのお役に立つ時がくるでしょう。ご出席なさる事は、鷹宮と結婚したあなたの義務でもあります」 崖っぷちに立たされた様な精神状態の紫織は、少々の誇張を加え、熱心に真澄を口説く。真澄は紫織がちらつかせるヨーロッパの社交界などなんの興味もなかったが、これでしばらく紫織が大人しくしてくれるのであれば、それも耐えうるものに思え、渋々承諾した。一ヶ月にも及ぶ悪夢のような新婚旅行に比べれば、こちらのほうが幾分ましだ、とたったの3泊を条件に紫織の提案を呑んだのである。 (3泊ぐらいなら、なんとか逃げ果せる) 世の新婚の夫が決して思わないような事を思い浮かべながら…。 ![]() 大都芸能社長室。 真澄は、水城から受け取ったベルリン行きの飛行機のチケットとと、部下に持ってこさせた、北島マヤ主演の最新作の映画の企画書を交互に見比べていた。 『天使のいた街』 というタイトルのそれは、冷戦時代の壁の街ベルリンを舞台にした恋愛もので、来年のゴールデンウィークにぶつける予定の大都の話題作のひとつである。 主人公の長沢は有名新聞社の特派員として、冷戦の象徴であるベルリンに駐在し、日夜その模様を東京に伝える。そんな殺伐とした毎日の中で出会った、オペラ座の歌姫、桐子に出会い恋に落ちる。プリマである奔放な桐子の恋は、灰色の空の街ベルリンで、ひらひらと泳ぐ熱帯魚のように、長沢の前を通り抜けていく。壁に囲まれた袋小路の街ベルリンで、壁の運命と一つの恋の運命の行方をドラマチックに追った内容だった。 主演の長沢は、桜小路優、そして対する、相手役の桐子が、北島マヤであった。 真澄にしてみれば、目玉でもあったベルリンロケが敢行されるのは、承知していたが、まさかこの時期にぶつけてあるとは思ってもいなかった。もともと、企画書の段階では、11月中にロケは行われているはずだった。しかし、監督である黒沼の強い希望で、大晦日の混乱を描いたシーンを実際にロケしたいという事で、国内撮影分を先に11月に済ませ、ベルリンロケが一ヶ月後倒しになっていたのだ。 「いまさらどうにもならんだろう」 真澄はそう呟くと、再び飛行機のチケットをしまい込んだ。 しかし、マヤを始めとした一行の滞在先ホテルが、真澄達が滞在するアドロンホテルから1ブロックも離れていない、グランドホテルだとわかると、わけもなく鼓動は速くなる。 (何かが起こる…) 不安のようでいて、どこか淡い期待が混じったような感情が真澄の中で渦を巻く。 (まぁ、いい。万が一出会ってしまったら、所属事務所の社長として激励するまでだ。それだけの事だ) 言い聞かせるように、自らの心に呟くと、先ほど胸の奥に渦巻いた妙な感情を、無理やりどこかへ押しやった。 ![]() 成田を出発した機体は、一時間もすると、日本海を抜け、シベリア上空に差しかかる。飛行時間の半分以上をシベリア大陸の上で過ごすのだから、なんとも広大な土地である事がわかる。高所恐怖症、閉所恐怖症である紫織は、搭乗後、すぐに睡眠薬をとり、眠っている。12時間もの間、ずっと隣に居られ、ファーストクラスとはいえ、狭い機内で密着されていたのでは、いささか気分も滅入るだろう、と覚悟していた真澄に、これは神の救いにさえ思えた。もっとも、そこまでして真澄と旅行に行きたいと思った紫織に、少なからず気の毒ではある、と思う程度の感情はまだ持ち合わせていたが、だからと言って何か優しい声をかけてやる、というような気にはやはり1mmもならないのである。 『仮面夫婦』 という言葉を思い出す。結婚して2ヶ月。すでに結婚する前から分かりきっていた事ではあるが、少なくとも真澄にとってはすでに完璧なまでに『仮面夫婦』であるこの現状に、この先永遠に続くかと思われる、地獄のような日々を思い浮かべると、この仮面に亀裂が入るのはそう遠くない将来の気がした。 『自分で自分を殺して生きていく』 そんな生き方を自分に課し、紫織との結婚を選んだ自分には、例へ仮面に亀裂が入ろうともその仮面を外す事は一生許されない。 鉛のような思いを、ウィスキーと一緒に飲み込むと、気圧の関係でいつもより、酔いの回りが早いのを感じる。 「悪酔いするな」 そう呟くと、紫織の居る方とは反対側に体を傾け、眠りに落ちた。 ![]() ドイツの首都と言えども、東西分裂時代の名残でいまだに国際級のインターナショナルエアポートを持たないベルリンには、日本からの直行便は飛ばない。フランクフルトで乗り継ぎ、二人はベルリン入りした。 飛行機恐怖症の人間にとって、離着陸の瞬間こそ最高の恐怖なのであるが、紫織にしてみれば、それを2回余計に味合わされる羽目になったわけで、フランクフルトからの一時間弱の乗り継ぎ便の中では、薬も切れたのか、眠る事も出来ず、顔面蒼白であった。そんな、自らの妻である人物の苦しそうな表情を見ても、 「大丈夫ですか?もうすぐですよ」 と病人を労わるような声をかけてやる事は出来ても、最後の最後まで、真澄はその震える白い手を握ってやる事は出来なかった。 空港到着後、タクシーでホテルに向かう途中も、紫織は無言であった。 「いまだに体が浮いてるようで、おかしな気分がいたします」 そういったきり、シートにぐったりと体を沈め目を瞑り、外の景色も見ようとしなかった。真澄は紫織とは反対の方向を見るように、車窓に目をむける。 市内からさほど離れた位置にない、テーゲル国際空港からホテルまでは30分ほどの道のりだという。時差にあわせて、8時間戻した時計の針は、午後6時を少し回った所だった。厳しい冬の気候であるドイツにおいて、ベルリンも例外ではなく、すでに外の気温は0度をとっくに下回り、日没も4時という事で、辺りはもう夜の闇に包まれていた。 (この寒さでは、ロケの方もさぞ難航しているだろう) そんな事を思いながら、ふと、マヤの顔を思い浮かべる。 (俺は会いたいのか?会いたくないのか?) そんな愚問を自分に問うてみる。仕事でならまだしても、紫織と個人的な事情でこんな所まで旅行に来てると知ったら、きっとマヤは傷つくであろう。 もし、今でも変わらずに自分に恋心を持っているというのであれば…。のこのこ出かけていくのは、あまりに無神経な気もした。しかし、その一方で堪らなく会いたいのも、一目でいいのでその顔を見たいのも、偽らざる気持ちであった。 マヤに呼び出され、バーの暗がりで思いを告げられてから、すでに3ヶ月弱の月日が過ぎている。その間、紅天女を巡る仕事の打ち合わせで何度か顔を会わせたが、決して二人きりであったわけでもなく、何か特別な空気が流れるような事もなかった。真澄の方も、努めて感情を顔に出さないようにして、マヤと接してきたし、マヤもどこか心に鍵をかけてしまったような態度であった。 (このまま、離れていくのが一番なんだろうか) 道路沿いに植えられた、背の高い木々の枯れ枝の間から、夜の闇に浮かび上がる白い月が見え隠れする。 と、突然、前方にライトアップされた、黄金の天使像が飛び込んでくる。一直線に伸びた道路の先に、それは先ほどから夜陰にそびえ立っていたが、すぐ近くまできて、それが天使である事に真澄は気付く。ライトアップされた為に神々しいばかりに光輝く、純金箔で覆われそれは、確かに背中に大きな翼をつけている。台座を含めた高さは70m近くあるだろうか。真澄が、タクシーの窓から、見上げるように眺めてるのを見ると、運転手が笑いながら口を開く。 「今きたルートで空港から市内にタクシーを走らせるとね、ここが一番最初の観光名所なんですよ。 『戦勝記念塔』なんてケッタイな名前が付いてますがね、地元じゃ『大きい星』って呼ばれててね。ここのバス停の名前だって『大きい星』だし」 可笑しそうに、タクシーの運転手は笑う。 「でも、あれは、勝利の女神ヴィクトリアと聞いたが」 と、真澄が言うと、 「ええ、ベルリンの天使ですよ。彼女はベルリンの星だからね」 そう言って、運転手は天使の周りをゆっくりと迂回しながら通り過ぎて行った。 真澄は、先ほどの問いに自ら答えを見つける。 それでも、自分とマヤは、何か目に見えない線で繋がっている。そして、それが 『紅天女』 であり、同時にそれは 『絆』 という種類のものである、と真澄は信じたかった。 ![]() アドロンホテル、最上階スウィート。「プレジデントスウィート」と名づけられたそれは、最近ではクリントン大統領、ブッシュ大統領、はたまたマイケル・ジャクソンが宿泊した事でも有名な超高級ルームだった。 『黄金の20年代』と言われ、ベルリンが最も華やかだった1920年代、マレーネ・ディートリッヒやチャーリー・チャップリンといった、当時の映画界の大スターがこぞって、アドロンをまるでアパート代わりに定宿として利用していた。ドイツ屈指の最高級ホテルとして君臨したアドロンであったが、戦後は壁の混乱に巻き込まれ、目と鼻の先わずか数十メートルの所に東西を隔てる壁が築かれた事によって、東ベルリン側に取り込まれ、閉鎖を余儀なくされた。 華々しく再オープンしたのは、壁崩壊後、つい最近の事である。 ボーイに案内され、プレジデントスウィートに足を踏み入れた真澄は、スタインウェイのグランドピアノまで配したその華美な室内装飾に、一瞬食傷感を覚えるが、それでも長旅の果てにようやく落ち着ける空間に辿りつけた事に、安堵のあまりほっとする。すぐに紫織を寝室まで連れて行くと、ベットに横にならせる。 「ご気分の方はいかがですか」 聞く前から答えは分かりきっているような事を、真澄は仕方なく聞く。 「ええ、だいぶ楽になってきましたわ。御心配おかけして申し訳ありません。飛行機に乗った後はいつもこうなんですの。ヨーロッパはやっぱり遠いですわね。久しぶりだったもので、醜態をお見せして大変失礼いたしました」 (その醜態こそ、神の救いでしたよ) などとは、口が裂けても言えないので、とりあえず心配そうな表情を顔に貼り付け、紫織を労わる。 (弱い人間を労わる、という人間としての最低限の感情さえも、もはや俺はこの人には感じられなくなってしまっていたのか) 日に日にはっきりと刻まれていく、二人の間の溝に、乾いた絶望感と笑いが起こる。 「その様子ですと、ディナーはキャンセルしたほうがよろしいですね。とても何かを受け付けられる胃の状態ではないでしょうし…。とにかく、ごゆっくりお休みになるといいでしょう」 言い聞かせるように真澄は言うと、ミニバーから用意した水を紫織に渡す。 「はい」 と申し訳無さそうに小さく頷いた紫織は、すぐにまた不安そうに真澄を見上げる。 「あ、あの、でも、真澄さまはどうなさいますの?お一人でお食事にでも?」 「いえ、食事は僕も長時間のフライトの後は、何も受け付けないので、簡単にどこかで済ませますよ。ただ、今すぐ眠ってしまうと、時差ボケが取れませんからね。僕はどうにも、時差ボケが苦手なもので、少し、外を散歩してきますよ」 極自然な様子で言う真澄に、紫織はもうそれ以上何も聞く元気もなく、 「わかりました」 と、短く言うと、水を口に運んだ。 「せっかくのお休みの所、起こしたくありませんので、私は帰ってきましても、隣の部屋におりますので、御心配なさらぬよう」 なんでもない風に言う真澄に、隠された自分への拒絶の臭いを嗅ぎ取ったのか、紫織の瞳の中で何かが動いたが、迫り来る睡魔と頭痛に耐え切れず、黙って頷くと真澄に背をむけ、寝返りをうった。 ![]() 外の気温はすでにマイナス10度にも達しようとしているであろうか。ホテルの回転扉の向こうの冷気に、ぶるっと身震いすると、真澄はコートの襟を立て、通りにでる。それでも、20時間以上ずっと一緒にいた紫織からの開放感はその冷気を清々しいとさえ思わせた。そんな、極悪人のような感情しか自らの妻に持ち合わせない自分に苦笑しながら、真澄はタバコに火をつける。 ホテルの目の前に聳え立つのは、有名なブランデンブルグ門であった。ベルリンの壁の象徴とされた、このブランデンブルグ門は東西冷戦時代、2枚の壁に挟まれ28年間、誰一人として通る事が許されなかったのである。門のすぐ向こうは西ベルリンという事になる。 今は歩行者天国となったそれを、観光客が自由に行き来するのを感慨深い思いで、真澄は眺める。 一瞬迷ったが、真澄はブランデンブルグ門とは逆方向に足を進める。門の向こうは西ベルリン最大の森林公園『動物の庭』が広がるばかりで、とくに今行くところでもない。華やかなショッピング通りと化した、東ベルリンで最も有名な通りウンターデンリンデンをそぞろ歩く事にした。日本語にすると、『菩提樹の下に』という名のそれは、名前の通り、左右2本さらに、道路の間に設けられた遊歩道に2本、立派な菩提樹が植えられ、美しい世界最古の4本並木道となっている。すでに350年の歴史を誇るそれは、古くはゲーテやシラーの散歩道としても有名であった。 そのまま、ウンターデンリンデンをオペラ座の前まで歩いてきた真澄の足が止まる。オペラ座をバックに目の前に広がるベーベル広場に、街灯の比にならないほどの強烈なライトが当たっている。反射板や、大きなマイクを持った人々が忙しく立ち回るそれは、間違いなく何かの撮影を思わせた。 (まさか…!!) 突如として速まる鼓動を抑えきれず、撮影隊の周りを遠巻きに出来た人垣のなかに真澄は突き進む。 (マヤ…!!) 真っ赤なロングコートに毛皮の帽子を頭にかぶった、可憐な歌姫は、今まで真澄が聞いた事もないような、まるで別人のような高いソプラノの声で、なにかを叫んでいた。 「もう、ここには来ないで欲しいと、申し上げたはずです」 「君を迎えに来た。一緒に西側へ帰ろう。今すぐ、僕と一緒に」 「いいえ、帰りません。私の帰る場所は、ただ一つ、オペラ座の舞台です。例え、何を奪われようとも、傷つけられようとも、私に歌う歌がある限り、私は歌に生きるのです!」 マヤ、もとい歌姫桐子の瞳は情熱に満ちている。 真澄は息をするのも忘れたように、マヤに見入った。甲高い芝居がかった声も、その派手な井手達も、マヤでないようでいて、まさしくマヤそのものだった。最初は見てるだけでいいと、思った。だが彼女を瞳に捕らえたら、彼女の瞳に自分を写して欲しいと思ってしまう。こちらを向いて欲しいと願ってしまう。馬鹿げた事だと思ったが、真澄は一瞬たりとも、マヤから視線を逸らせなくなっていた。 絶望と悔恨の色を半分ずつ目に浮かべながら、桜小路が演じる中沢が叫ぶ。 「僕は、僕は君なしでは生きていけない!!」 「おかしな事を仰りますのね。私を捨てて、別の人生を選び取ったのはどこのどなたでしたっけ。今更何をおっしゃりますやら…」 クククッとマヤは妖しげな笑みを漏らす。 「まだ、お分かりでないようですね。あなたは、今も私があの頃のままだとお思いのようですね。今も二人はあの頃のままだと…。とんだ思い違いですわ! 私はもう、あの頃の私ではありません。それから、二人の立場もまるで違います。東と西の間に越える事の出来ない壁があるのと同じに、わたくし達の間にも決して越える事の出来ない壁が出来てしまったのですよ! いつまでも、私があなたを愛してるなんて思わないで頂きたいわ!!」 マヤの声とは思えない、甲高いヒステリーな声が広場中に響き渡る。 真澄は芝居とは分かっていても、その台詞に心臓が抉り取られるような痛みを覚える。 『いつまでも、私があなたを愛してるなんて思わないで頂きたいわ!!』 真澄の脳内でマヤの叫びがこだまする。 その時マヤは、演技の上で一瞬、視線をさまよわせ、その目は捉えてはいけない人物を捉えてしまう。 (速水さん!!) 幻覚にしか思えないそれに、マヤは声をなくし、あっという間に激情の歌姫の仮面が剥げ落ちる。 12.28.2002 ![]() |
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