19 予定外の出来事
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" 嵐の夜に抱きしめて 3" written by 杏子 |
(うわぁ、もう、死んじゃいたいっ…)
マヤは恥ずかしさのあまり、体中の毛穴から汗が吹き出る思いがする。マヤを抱きとめた拍子に真澄も倒れこむ格好となり、バスルームの固いタイルに激しく腰を打ちつけた。 「…っつ!」 真澄の痛みを堪える短い叫びに、マヤはおろおろしてしまう。 「ご、ごめんなさい!す、すぐ、どきますから…」 そう言って、真澄の上に覆いかぶさる様に倒れこんでしまった体勢を、慌てて戻そうとした瞬間、真澄の腕にきつく抱きしめられる。 「悪いと思ったらしばらくこうしてろ」 「えぇ!!」 びっくりして、そして恥ずかしくて、ジタバタと暴れだすマヤの頭を真澄は優しくなでる。 「しーっ」 まるで、子どもをあやしつけるように…。 体中の毛穴から汗が噴出したのは何も、マヤだけでない。いや、マヤ以上に真澄は興奮し、動揺していた。 視覚的に何も与えられず、ただ感触として自らの腕の中に飛び込んできたそれは、否が応でも強烈に想像力を刺激する。初めて触れた、何もまとっていないマヤの素肌。ただ服を着ていないという違いだけなのに、 (この子はこれほど小さかったか?) そう思ってしまうほどの、その肉体の小ささが一層、自らを欲情させる。今にも爆発して襲いかかりそうなそれを最後に残っていた理性の欠片でかろうじて押さえ込めながら、その腕の中で震える、欲望の対象の鼓動が落ち着くのを待った。 素っ裸で真澄の腕の中に居るなんて、例えそれが暗闇の中であって見えてないとは言え、この状況はマヤにとってこの世の終わりに等しいほど恥ずかしい事なのに、振り切れるほどに高鳴っていた心臓の鼓動は、真澄の腕の中で次第にテンポを落としていく。 マヤが落ち着いたのを見計らって真澄は言う。 「マヤ…、俺が恐いか…」 唐突なその問いに、マヤの体が一瞬ビクリと震える。なんて答えたらいいのか、考えあぐねた後、マヤは自信なさげに言葉を紡いでいく。 「恐いっていうか…、自信ないです…、いろいろ…」 「何に対してだ?」 相変わらずゆっくりと髪を撫でながら囁く真澄の声は、この上なく落ち着いていて、そして優しい。 「何って…。その…、全部…です…。 私、恋愛の経験も、その…、男の人とそういう、大人な…お付き合いとかも、した事ないし…、あの、初めてだし…、きっと…上手く出来なくって…、でも速水さんは大人だし…」 ブツ切れに発せられるマヤの言葉は、一生懸命に何かを伝えようとしているのが伝わってきて真澄の心を熱くする。 「きっと…、私なんか、速水さん…、すぐ飽きちゃう…」 そう言って真澄のYシャツにしがみつくように、顔を埋めたマヤを、真澄は心底愛おしいと思う。 「君はずいぶん、かわいい事を言うんだな」 そう言ってくすりと笑う声が聞こえたので、マヤは途端に脹れたくなる。 「ま、また、そうやって人の事、馬鹿にする、私はこんなに、こんなに真剣なのにっ!!」 「俺も真剣だ」 間髪入れずに跳ね返ってきた真澄の言葉が、あまりにも強く鋭いものだったので、マヤはビクリとする。 真澄はゆっくりと上体を起こすと、マヤを膝の上に座らせた。髪を撫でていた真澄の指が、ゆっくりと背中を伝って降りてくる。生まれて初めて裸の背中を誰かに触られた気がする。ぞくぞくと得体の知れない感触がどこからともなく這い上がってくると、マヤはその感覚に早くも溺れそうな自分を恐いと思う。 「俺がどれほど君を欲しかったか、君は知らないのか?」 低く搾り出される真澄の声は、いつもの聞きなれたそれとは違う響きで、どこか苦しそうで、そんな真澄の声をマヤは『セクシー』と思ってしまう。 (ヤ、ヤダ…!セクシーだなんて、何考えてるのよ) そう否定してみても、暗闇のなかで視界から全てのものを奪われているこの状況では、触感と聴覚が異常に研ぎ澄まされ、マヤは真澄の指にも声にも次々と反応してしまうのだ。 「他の誰かに取られるぐらいだったら、この手で壊してしまってでも、手に入れたいと思った事もあった…」 マヤの背中を上下していた真澄の指が段々と円を描くように、背中をゆっくりと這い回る。あの美しい真澄の長い指を想像して、マヤはおかしくなりそうになる。 耳元でそれらの言葉を紡いでいく真澄の吐息はこの上なく熱く、湿っている。 「やっと手に入れたと思ったら、今度は…」 真澄がマヤの耳元を探り当て、キスをする。 「失うのが怖くて、手が出せなくなった」 2度目のキスはもっと耳に近いところで、マヤの背中を身震いするほどの戦慄が駆け上がる。 その瞬間、キスとは違う感触が耳たぶを襲う。真澄はまるで、そこの感触を弄ぶように何度か甘噛みすると、耳元で息を吹きかけるように囁く。 「だが、全部を手に入れないと、もう我慢できない…」 「…あっ……」 思わずマヤの口から艶かしい吐息がこぼれる。それを合図に真澄の指が背中から脇へ、そしてきつく交差された腕に押し付けられている胸へと動いていく。 「…邪魔だ…」 優しく真澄はそう言って、マヤの腕を解いてしまう。マヤが腕の置き場に困ってるのを察したのか、真澄はマヤの腕を取ると、自らの両肩に乗せる。あらわになったマヤの乳房を、ゆっくりと真澄の手が包むように触れる。 マヤは恥ずかしさで腕をまた閉じてしまいたくなる。しかし、真澄の逞しい両腕にしっかりと邪魔されて、ただただ、人形のようになされるがままになるしかない。 「…ア…ン…」 真澄の親指がその頂に触れたとき、マヤの口から2度目の吐息がこぼれる。 (ヤ、ヤダ…。こんな声、出したくないのに…) 羞恥心でどんなに真っ赤になって俯いても、この暗闇ではその表情は真澄には見えないだろう。それが、いい事なのか悪い事なのか、もはやマヤにはわからない。 暗闇の中で、お互いの行動が全く読めない中、マヤは真澄の動きに翻弄されていく。 胸を弄ばれ、体中の全神経がそこに集中してしまったかのような、嵐のような状況の中で、不意打ちをかけたように唇を奪われる。 上唇をゆっくりと噛む様に右から左へ移動すると、今度は下唇をやはり甘噛みしながら左から右へ移動する。マヤの唇が柔らかくなって少し、隙間が出来ると、ゆっくりとその侵入者を受け入れる。タイル敷きのバスルームで、唾液が混ざり合う音が淫らに響く。 わざとゆっくりと舌を絡める真澄の行為がこの上なく、マヤを挑発する。思わずマヤがその舌を求めて、動きをかけると、嘲笑うかのように真澄の舌はそれをかわす。そして、またゆっくりと絡める。 (…アタシ…、オカシクナル…) 真澄の肩に置いたマヤの腕がぶるぶると震えだす。Yシャツの肩のところをきつく握り締めると、マヤはか細い声で訴える。 「速水さん、ずるい…。私だけ服着てなくて、私だけこんなに震えてて、私だけオカシクなりそうで、ずるい…」 それだけ聞くと真澄はマヤを抱き上げる。 「君はなにも、心配しなくていい…」 そう言って額にキスをすると、ゆっくりと慎重に暗闇の中をマヤを抱きながら寝室へ向かう。 1.14.2003 |
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